続 星月夜の少年人形 17 【最終話】
ぴくりと、身体が震え身体が生理的に、逃げようとする。
「桃李・・・こっち向いて、おれのこと見て。いつも、おれの後を追ってきたよね。」
覗き込む紘一郎に、桃李ははにかんだように頷いた。施設に入ってからは、紘一郎だけが自分の傍にいてくれた。
「おれにはいつだって紘ちゃんしかいなかったよ・・・。花村さんのこと好きだったけど、花村さんは絶対おれの方は見てくれないんだ。いつだって、花村さんはおれの向こうに一緒に暮らせない子供を探していたんだよ。うんと、昔から知ってた・・・紘ちゃんだけは、いつだっておれのことちゃんと見てくれた。いつだって、紘ちゃんだけだった。」
「うん。おれは、桃李が可愛くて大切で、今まで何もできなかったんだ。知らなかっただろう?桃李を狙う奴を、片っ端から叩きのめして回ってたんだよ。」
「紘ちゃん。おれのこと守ってくれてた?・・・好きだったの・・・?」
「桃李のこと玩具にしたと思って、思いっきり花村さんを殴り飛ばすほどね。後で、一緒に謝ってくれる?花村さんは、桃李にだけは甘いからさ。」
「うん。」と、紘一郎の腕を嬉しそうに取った桃李の白い頬は、丸く紅を刷いたように染まっていた。その薄紅色をもっと濃くして、小さな口をそっと開いた。赤い舌がちろと緊張して乾く唇を舐め上げた。
撮影前、関節に掛けられた黒い紐で、桃李の関節は人形のようにぎこちなくしか動かせない。人形を稼働させる球体間接を模した黒い紐は、桃李の動きを固く制限していた。
紘一郎は逃げられない桃李の唇を捕まえると、震える舌を吸い上げた。
「はふ・・・っ・・・」
吐息にも似た甘い声が漏れる。自由に会話していいよと、成瀬が告げた。
「紘ちゃん。町を歩くとね、いつも誰かがおれのこと「ハイエナの子」っていうんだよ。おれにそっくりなやつが、どんな酷いことをあちこちでしてきたか、おれは知ってたんだ。だから誰も好きになっちゃいけないかと思ってた。」
紘一郎の厚い胸に顔をうずめて、桃李は哀しげに打ち明けた。いつも何をしていても付いて回る、自分の知らない出生の噂が辛かった。
同じ顔をしていると言うだけで、世間は桃李に冷たく当たった。だらりと、両腕を下ろした桃李が、腕の中で涙ぐんで紘一郎を見上げた。カシャカシャとシャッター音が響く。
「桃李。いつかアフリカへ連れて行ってやるよ。おれは、知ってる。見せてやるよ、本物のブチハイエナの子供って、ものすごく可愛いんだよ。広い国立公園には、世界で一番きれいな夕日が見えるところがあるんだ。」
「夕日を見にわざわざアフリカまで行くの?紘ちゃんって、ロマンチストだったんだ。」
うふふ・・・と、桃李が薄く笑顔を浮かべたのを、成瀬は次々に切り取ってゆく。傍にいるのが良く知る紘一郎だからだろうか、桃李は誰も見たことの無い、満ち足りた柔らかい笑顔を浮かべていた。
紘一郎は、桃李の欲しい言葉をそっとささやいた。
「桃李は桃李だよ。桃李が居るから、おれはなんだってやれるんだ。おれには、一番大切なんだよ。誰に似ていたって関係ない。おれは桃李の綺麗な顔、まじで好きだよ。」
「紘ちゃん・・・。ほんと・・・?おれを、好き?」
何もつけていない桃李の白い肌に触れたら、そこから色が付いてゆくようだ。震える長い睫に彩られた形の良い瞳が揺れた。抱き上げた桃李を、足の間に落とし正面を向かせた。肩に顔を埋める紘一郎が、桃李の名を呼んだ。割広げた足の間に、落された桃李は力を抜いて身体を倒し頭を持たせかけた。
何も知らない桃李の青い性が、容を変えて立ち上がろうとしている。隠そうとして手が伸びるのを、成瀬が短く指示を出す。
「紘一郎、桃李の手を掴め。」
いやいやと頭を振る、桃李の顔が濡れている。桃李の中心にささやかに屹立した紅の蕾を、紘一郎が背後からそっと指を伸ばし扱いた。
「いや・・・いや・・・、紘ちゃん・・・成瀬さんが・・・花村さんが見てる。出ちゃう・・・、駄目っ・・ああっ・・・!」
「いやらしいお人形さんだねぇ。ぬるぬるだ、桃李。」
「そ、そんなこと、言っちゃ・・・やだぁ・・・っ。」
成瀬が言葉で煽ってゆく。紘一郎の手で追い詰められて、桃李は悲鳴をあげた。
「紘ちゃん、離して・・・ああっ・・・。」
「ほら、こっち向けて、いい顔して。桃李、すっごく可愛いよ。」
「やだぁーーーっ・・・!」
*******
少年人形は、紘一郎の手のひらにとろりと白い精を零し、汚してしまってごめんなさいと嗚咽を漏らした。震えながら痙攣するように達ってしまった桃李は、羞恥で顔を覆ってしまった。こみ上げる涙は、決して悲しみにくれたものではなかった。
ずっと欲しかったものが、やっと手に入ったような気がする。温かい視線に包まれて、愛に飢えた少年が、星月夜に空から降ってくる星を見つめた。
写真集「星月夜の少年人形」は、青年に愛されて命を吹き込まれ、人間の少年になった物語を綴った。
愛されたかった人形は、探し求めていた居場所を見つけた。
やっと彷徨の旅を終える。
「桃李。」
恋人に名を呼ばれ振り返った少年人形は、それから瞬く間に少女たちの寵児となった。
(´;ω;`) 頑張ったんだけど…ものすごく頑張ったけど・・・時間かかった割に、お絵かき、思ったようには上手くいきませんでした。
( *`ω´) 紘一郎:「桃李は、もっと綺麗だぞ。」
。゚(゚´Д`゚)゚。此花:「無理~~~これが限界、精いっぱい!」
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