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続 星月夜の少年人形 7 

「なあ、あの子、無戸籍だったんだろう?」

生まれた子供にミルクを飲ませながら、新米パパの成瀬が聞いてきた。

「ああ、荷物をろくに持って行ってなかったから、大家さんと一緒に捜したんだが、母子手帳も、それらしいものは何もなかったんだ。「置き去り児」と言うらしい。」

「そうか、このあたりじゃ別に珍しくもないが、置いて行かれた桃李は辛いだろうなぁ。」

母親は、キャバクラに勤める時、不思議と偽名を使っていなかった。本名と本籍が判った為、すんなりと母親のことだけは分かったのだが、出生届は出ていなかった。
母子手帳がないという事は、病院で定期的な検査を受けていないという事だ。記載がない以上どこでお産をしたかも定かではない。経済上の理由から近頃、産院にかからないで飛び込み出産するケースもあるらしい。
ぎりぎりまで待って、彼女たちはすんでの所で救急車に電話を掛ける。
桃李は、そうやって産まれた子供だった。支払いを済ませることなく、桃李の母親は生まれたばかりの赤子を抱いて、真夜中病院を抜け出した。

小児病棟にいる桃李は大人しく聞き分けが良く、文字通り借りて来た猫のようだった。それでも、ドアが開くたびに振り返り大きな目を瞠(みは)る所を見ると、諦めていながらも母を待っているのだと思うと看護師が口にした。
桃李の大切な薄汚れたぬいぐるみのリュックから、走り書きのメモが見つかったと担当刑事が告げた。
「この子をお願いします。」という、短いメモを残したのが、母親のせめてもの親心だっただろうか。出来の悪い男の不始末の付けで、追い立てられるようにこの町を後にした母親が不憫だった。

*******

二週間ほどで、桃李は病院を後にした。
施設に移った桃李に会いに、花村は時々出かけた。

いつしか季節は廻って冬になっていた。
四季の分かりにくい町にも、六花は舞い降りた。

何もしてやれない自分の息子に詫びるように、ほかの子供と桃李の七五三の写真を成瀬に頼んで撮ってやり内緒でアルバムを作った。
誰か一人を特別扱いにすることはできないと知っていたから、施設の子供全員分のクリスマスプレゼントを運んだ。大きな袋を抱えてサンタクロースに変身した花村に向けて、物言いたげな桃李の大きな瞳が揺れた。

「サンタさん。」

「おお、メリークリスマス!」

見上げた瞳は真っ直ぐに、たった一つの叶うはずの無い願いを口にした。

「サンタさん。ままは?」

「う~ん…。」

クリスマスにサンタクロースに願い事をすれば叶うと、誰かが教えたのだろう。もう少し大きくなると一番最初に諦めを覚える施設の子になった桃李は、期待を込めてサンタクロースを見上げていた。
ほんのしばらく固まったように立ち尽くしたサンタクロースは、答えを待つ少年の目線に降りてくると、その場しのぎの嘘をついた。

「サンタさんな。ママからお願いされたんだ。大好きな桃李くんに、お手紙書く時間がないから伝えてくださいって。」

桃李の瞳が期待に輝いたとき、余計なことを言ってしまったと思ったが、今更後には引けなかった。サンタクロースはいつも世界中の子供たちの希望で、純心の産物なのだ。

「ママは、お仕事があります。だから、いい子で待っていてね。おじさんに、お願いしておきます。・・・だって。」

そう言った後、花村は逃げるように施設を後にした。
偽善サンタクロースの衣装を乱暴に脱ぎ、白いひげを引きむしった。自分が馬鹿なことを言ったと言う自覚は、十分すぎるほどあった。それでも、言わずにはいられなかった。
寂しく星を見上げる桃李を、自分が失った子供と重ねて混同している気がする。

「何をやってるんだ、俺は!」

スワンのママが、自分に腹を立てて吼える花村の寂しい背中に、そっと触れた。

「慰めてあげましょうか・・・?」

一気に酔いが醒めた。

「キスしてくれ。意識も飛ぶような、うんと濃厚な奴。」

「ふん。ノンケのくせに無理するんじゃないわよ。」と、スワンのママは笑った。

「言っておきますけど、あたしのキスは、罰じゃなくてね、いい子に上げるご褒美なのよ。もう・・・仕方ないわね。」

そう言いながらスワンのママは、花村の頭を鷲掴みにすると深いキスをした。

「メリークリスマス・・・いい子ね。」

月の見えない、星だけが輝いている夜だった。





(´;ω;`) 桃李:「サンタさん。ままは?」

自分で書いてて思わず・・・(ノд-。)「あう~・・・此花のばか・・・」
身内でもない以上、なかなか一緒に暮らすのはむつかしいみたいです。
このくそ暑いのに、クリスマスのエピソードになってしまいました。

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