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続 星月夜の少年人形 番外編 「それから・・・」 

スケジュール帳を開いて、花村は贅沢な溜息を付いた。
どのページも、真っ黒に埋め尽くされていた。

「紘一郎に合わせて、休み入れろったって無理だよ、桃李。悪いが、当分休みは無しだな。」

「え~ん。愛する紘ちゃんに、逢いたいよ~~。」

「一緒に住んどいて、何を言ってるんだ。嘘泣きを止めて、きりきり働けっ。」

「くそぉ~~、いたいけな少年を、過酷な労働条件で働かせるって、労働基準局にちくってやる~!」

そう言って、桃李は口を尖らせた。そんな顔も、相変わらず可愛い。
小さな映像会社だった花村と成瀬の会社を足掛かりにして、今や桃李は休みがないほどの売れっ子になっていた。大学院を卒業後、製薬会社の難病新薬のプロジェクトに関わるようになった紘一郎と休みが合うはずもない。どちらも死ぬほど忙しかった。

桃李の芸能活動は、写真集を少数ロットで販売したのが転機となった。
大手から声を掛けてもらった桃李は、マネージャーに花村を付けて欲しいとただ一つの条件を出した。話をした人事担当が、驚くほど多方面に明るい花村ならすぐにも使えると、二つ返事で雇用が決まった。
渋る花村に、出来ればそうしてやってと周囲が頭を下げ、最後にとうとう花村は折れた。スワンのママと桃李の泣き落としに、まんまと引っ掛かった気もする。

社長直々に会食を申し込まれ、おっかなびっくりで出かけた桃李は、まるで物怖じしなかった。大手芸能事務所の社長という大物に、すっかり気に入られていた。無垢な天使の姿でいながら、どこか暗いものを感じさせる所が良いと社長は桃李のプロジェクトに大乗り気だった。
戦後の混乱時、GHQを相手に、娯楽を売ってきた社長は、桃李にその頃の役者の匂いがすると言う。もっとも、桃李は「それって、おれのビジュアルが古臭いってことかよ~。」と言って、むくれていた。

「こちらで対処できないような過去が、あとから出て来ては困る。一応、経歴を教えておいてくれるかな。」

初めて会った時そう言った社長に、桃李は包み隠さずゲイビデオに出演していた話をした。

「言い訳なんて、するつもりはないです。おれには、映像の仕事が向いていると思ったから、自分で選んでそうしたまでだから。」

「・・・それを、汚い仕事だと思わなかったかね。それとも、周囲にやらされたとか?」

桃李は、まっすぐな目を向けた。

「辛いことはあっても、やってる仕事が汚いなんて思ったことないです。演技してカメラに向かったら、おれはどんなおれにも成れる気がしてた。つまらない人生を送るよりも、いくつもの人になりきるのは楽しかったです。それに花村さんや成瀬さんは、おれにひどいことはさせなかったし、恥たり後悔したりしていません。食うためです。」

「そうか。」

社長も、また真っ直ぐに桃李を見て微笑んだ。

「見せて貰ったがね。どんな仕事でもできると言うのは、正直言うと一つの売りになる。実はね、うちの事務所にはそういう訳有りの子が、もう一人いるんだ。妹さんが、心臓手術が必要でね。若手俳優の中じゃ、映画賞を総なめにしている子だから、名前を聞けば知っているだろう。思いつめて売りに立っているのを見つけて、おれが数年前に拾って来たんだよ。後で紹介してやろう。」

桃李は自分のことを思い出したのだろうか。くしゅと、鼻を啜った。
興味を持ったのだろう、約束の時間が過ぎても社長は桃李を放さなかった。幼い頃に、置き去りにされた話を涙ぐんで聞いてくれた。花村を慕うのも、両親のいない桃李が父親のように思っているからだと言う花村の話にも興味を持ったようだ。花村個人の話も聞きたがった。

「素人のくせに、ずいぶん腕のいいマネージャーだと聞いたんだが、君は、土光会長のSPだったのか。そういえば、ずいぶん昔に、経団連の会合で娘が駆け落ちしたとかいう話を聞いたような気がするな。君のことだったのか。」

「過ぎた話です。」と、頭を下げた花村に、そういう親子もどきもいいじゃないかと、会長は機嫌が良かった。
花村は成長した桃李を見やった。華やかな風貌は一見誰をも虜にするほど美しい。だが、その仮面の下は、甘えん坊で寂しがり屋で、裏口から出てくる母親を待って、ビールケースに腰掛けていた頃と変わらない。花村にとって、桃李はいつも抱っこをせがむ幼子だった。

親になり損ねた自分と、出会ったころからずっと慕って来る少年。
花村は腕を伸ばし時計を見た。

「行くぞ、桃李。舞台挨拶の時間だ。」




                      
                      続 星月夜の少年人形 番外編 「それから・・・」―完―
 


(`・ω・´)桃李:「これから、映画のお仕事です~。がんばります。」

長らくお読みいただき、ありがとうございました。
まだまだ、王道というには疑問符なのですが、薄幸の桃李の上にも、星は降り注ぎました。
投げっぱなしのゲイビの伏線を拾い、一応、それも一つの経験ということで、ごまか・・・。
(*⌒▽⌒*)♪がんばりました~~。

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桃李

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2 Comments

此花咲耶  

美月さま

> 桃李。なんとか、幸せの道を歩んでいるようで、
> 安心しました。
> わんわん泣いて、かわいい。
>
王道って、皆様あっさり書いているのですごいなぁ…って思います。・・・と、いうか、まともにエチ場面のない此花、アダルトカテにいるのが心苦しいです。(ノд-。)
時代物、平安と幕末ですね、どちらも好きな時代です。花魁、書こうと思います。←無謀・・・

> イラストも、ものすごく綺麗です。
> 描けるのって、すごいですよね。

ありがとうございます。まだまだへたっぴですが、描くのは好きなので練習しています。
がんばります。(`・ω・´)
コメントありがとうございました。うれしかったです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/07/05 (Tue) 20:39 | REPLY |   

美月  

終わりましたね。

桃李。なんとか、幸せの道を歩んでいるようで、
安心しました。
わんわん泣いて、かわいい。

イラストも、ものすごく綺麗です。
描けるのって、すごいですよね。

2011/07/05 (Tue) 19:55 | EDIT | REPLY |   

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