続 星月夜の少年人形 5
おなべの成瀬が、「好きな女の面倒を、丸ごと見るつもりなんだ。」と打ち明けた時、花村とスワンのママは何度も意見をした。
「気持ちは分からないでもないけどさ、所詮赤の他人じゃないか。面倒見切れるわけないと思うぞ。赤ん坊の頃はいいけどさ、反抗期なんぞむかえて見ろ、可愛げのないガキの向こうにろくでなしの男の顔が重なるぞ。悪いことは言わない、止めた方がいい。」
人に散々意見をして置いて、自分は何をやってるんだと、成瀬に文句を言われるだろうなと思いながら、花村は急ぎの仕事を片付けた。
話に出てきた、古い木造アパートは訳ありの住人ばかりが住んでいる。水商売関係はもちろんのこと、売れないライターや、薬の売人、不法就労者まで住んでいた。保証人が無くても家賃さえきちっと払えば入居条件にはこだわらず、深く詮索はしないというのが売りだった。
家主の父親は終戦後、戦地から引き揚げて来て、古い楼閣をアパートにしたらしい。確かに建物には個室が多く、そのまま使えた。目の付け所は良かったかもしれない。
「あの女は、6か月分も溜めて逃げたんですよ。あたしの人を見る目も曇っちまったかなぁ。素直そうな子だったんだけど・・・。追い出されたらどこにも行く所がないってんで、入れてやったのに、これじゃ恩をあだで返すってことじゃないですかね。これまではうちのアパートの住人は、どんな人でも家賃だけは払ってくれたんですけどね。」
花村が来るまで、スワンのママが話を繋いでくれた。
「見る目がないなんてことはないわ。惚れた相手が悪かったのよ。酷いヒモだったらしいじゃない?昔の水飲み百姓みたいに、女は生かさず殺さず搾り取るもんだ、ってうそぶいてたらしいわよ。」
「ろくでもねぇな、あいつ・・・。今頃、無事では済まんだろうな。」
ヒモというのは桃李の父親のことだろう。入駒組の親分は、極道としては堅気に迷惑を掛けない任侠肌の温情派だったが、その分、猫っ可愛がりしている一人娘が関わってくると、簡単に理性のたがははじけ飛んだ。誠意のある男と純愛の末結ばれたのなら、我慢のしようもあっただろうが、男のことを調べるうちに、よりによって自分の愛人にも手を出していた話が耳に入ってはどうしようもない。噂をしながら、男の行く末を想像してしまう。
どう考えても、悲惨な末路だった。
「あたしはね、そんなやくざ者はどうだっていいんですよ。ただね、あたしにだって可愛い孫娘がいましてね。ただ同然の家賃を貯めて、いずれは出来れば大学資金位、出してやりたいって思ってましたからね。」
「あら。いいおじいちゃんで、お孫さん幸せねぇ。」
「いやいや、八十の爺いなんざ若い娘から見りゃ、小汚ないもんでしょうよ。」
スワンのママと、家主がそんな話をひとしきり交わし終わったころに、花村は到着した。
*******
「遅くなってすみません。」
スワンのママに相手をしてもらった老人は、ほろ酔いで上機嫌だった。目配せをした花村は、すぐに桃李の事を聞いた。
「黙って出て行ったキャバ嬢って、子供を連れてたでしょう?二歳になるかならないかの、男の子。ご存じないですか?泣き声とか、聞こえてませんでした?」
「知らねぇな。そういやさ、最近、真夜中に、猫が発情してにゃあにゃあ泣いてたんだよ。子供の泣き声みたいだなって話を、近所でしてたんだがどこかへ行っちまったかな。」
「花村ちゃんっ!」
スワンのママが、差し出しかけたビールのグラスを取り落しそうになった。
「大家さん、さっきの逃げたキャバ嬢の部屋ってどこですか?もしかすると、子供を置いて一人で出て行ったのかもしれない。鍵、持ってますか?」
「お、おう。階段上がったすぐの、角部屋だ。」
花村は駆け出した。
まさか、そんなことになっていなければいいがと思うが、嫌な予感だけが押し寄せて来る。
初めて食べたお子様ランチの旗を、持って帰ってもいいよと言ったら、初めて明るい子供らしい顔を向けた。
外鍵を開ける手ももどかしく、引きちぎるようにしてやっと開けた。足元にゴミ袋が山と積まれていて、鼻をつく異臭を放っていた。いっそ、母親と一緒に行ってくれればと思った。
「桃李!」
二間続きの部屋に、敷きっぱなしの布団がある。気配のないのに、半ば安堵して部屋を後にしようとしたとき、物音を聞いた。狹い部屋を見渡して、勘違いかと思ったときほんの少しドアが開いているのを認めた。
ヾ(。`Д´。)ノ桃李:「此花、こら~~。また、ぼくの事、くさい感じにしようとしてる~~!!」
(*⌒▽⌒*)♪此花:「え・・・・?そんなことないよ~~~」←どきどき・・・
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コメント、感想等もお待ちしております。 此花咲耶
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「気持ちは分からないでもないけどさ、所詮赤の他人じゃないか。面倒見切れるわけないと思うぞ。赤ん坊の頃はいいけどさ、反抗期なんぞむかえて見ろ、可愛げのないガキの向こうにろくでなしの男の顔が重なるぞ。悪いことは言わない、止めた方がいい。」
人に散々意見をして置いて、自分は何をやってるんだと、成瀬に文句を言われるだろうなと思いながら、花村は急ぎの仕事を片付けた。
話に出てきた、古い木造アパートは訳ありの住人ばかりが住んでいる。水商売関係はもちろんのこと、売れないライターや、薬の売人、不法就労者まで住んでいた。保証人が無くても家賃さえきちっと払えば入居条件にはこだわらず、深く詮索はしないというのが売りだった。
家主の父親は終戦後、戦地から引き揚げて来て、古い楼閣をアパートにしたらしい。確かに建物には個室が多く、そのまま使えた。目の付け所は良かったかもしれない。
「あの女は、6か月分も溜めて逃げたんですよ。あたしの人を見る目も曇っちまったかなぁ。素直そうな子だったんだけど・・・。追い出されたらどこにも行く所がないってんで、入れてやったのに、これじゃ恩をあだで返すってことじゃないですかね。これまではうちのアパートの住人は、どんな人でも家賃だけは払ってくれたんですけどね。」
花村が来るまで、スワンのママが話を繋いでくれた。
「見る目がないなんてことはないわ。惚れた相手が悪かったのよ。酷いヒモだったらしいじゃない?昔の水飲み百姓みたいに、女は生かさず殺さず搾り取るもんだ、ってうそぶいてたらしいわよ。」
「ろくでもねぇな、あいつ・・・。今頃、無事では済まんだろうな。」
ヒモというのは桃李の父親のことだろう。入駒組の親分は、極道としては堅気に迷惑を掛けない任侠肌の温情派だったが、その分、猫っ可愛がりしている一人娘が関わってくると、簡単に理性のたがははじけ飛んだ。誠意のある男と純愛の末結ばれたのなら、我慢のしようもあっただろうが、男のことを調べるうちに、よりによって自分の愛人にも手を出していた話が耳に入ってはどうしようもない。噂をしながら、男の行く末を想像してしまう。
どう考えても、悲惨な末路だった。
「あたしはね、そんなやくざ者はどうだっていいんですよ。ただね、あたしにだって可愛い孫娘がいましてね。ただ同然の家賃を貯めて、いずれは出来れば大学資金位、出してやりたいって思ってましたからね。」
「あら。いいおじいちゃんで、お孫さん幸せねぇ。」
「いやいや、八十の爺いなんざ若い娘から見りゃ、小汚ないもんでしょうよ。」
スワンのママと、家主がそんな話をひとしきり交わし終わったころに、花村は到着した。
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「遅くなってすみません。」
スワンのママに相手をしてもらった老人は、ほろ酔いで上機嫌だった。目配せをした花村は、すぐに桃李の事を聞いた。
「黙って出て行ったキャバ嬢って、子供を連れてたでしょう?二歳になるかならないかの、男の子。ご存じないですか?泣き声とか、聞こえてませんでした?」
「知らねぇな。そういやさ、最近、真夜中に、猫が発情してにゃあにゃあ泣いてたんだよ。子供の泣き声みたいだなって話を、近所でしてたんだがどこかへ行っちまったかな。」
「花村ちゃんっ!」
スワンのママが、差し出しかけたビールのグラスを取り落しそうになった。
「大家さん、さっきの逃げたキャバ嬢の部屋ってどこですか?もしかすると、子供を置いて一人で出て行ったのかもしれない。鍵、持ってますか?」
「お、おう。階段上がったすぐの、角部屋だ。」
花村は駆け出した。
まさか、そんなことになっていなければいいがと思うが、嫌な予感だけが押し寄せて来る。
初めて食べたお子様ランチの旗を、持って帰ってもいいよと言ったら、初めて明るい子供らしい顔を向けた。
外鍵を開ける手ももどかしく、引きちぎるようにしてやっと開けた。足元にゴミ袋が山と積まれていて、鼻をつく異臭を放っていた。いっそ、母親と一緒に行ってくれればと思った。
「桃李!」
二間続きの部屋に、敷きっぱなしの布団がある。気配のないのに、半ば安堵して部屋を後にしようとしたとき、物音を聞いた。狹い部屋を見渡して、勘違いかと思ったときほんの少しドアが開いているのを認めた。
ヾ(。`Д´。)ノ桃李:「此花、こら~~。また、ぼくの事、くさい感じにしようとしてる~~!!」
(*⌒▽⌒*)♪此花:「え・・・・?そんなことないよ~~~」←どきどき・・・
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