続 星月夜の少年人形 12
雑誌の撮影は、学校の休みを選んで近場で行われることになった。
人の居ない早朝の公園の片隅と、裏通りの教会が撮影場所になった。桃李の高校の学生服はブレザーだが、あえて黒い学ランにしようと成瀬が提案した。着こなしに慣れていない方が、初々しくていいからというのが、現場を良く知る成瀬の意見だった。
大きめの借りてきたようなサイズの合わない学ランを着て、桃李は初めて会う青年の前におずおずと頬を染めて立つ。
花村は黙って見守った。
古い教会での撮影にも許可が下りた。
森鴎外の「ヰタ・セクスアリス」、稲垣足穂の「少年愛の美学」三島由紀夫の「仮面の告白」と、花村は文学の話を山と織り交ぜて、牧師を煙に巻き押し切った形になった。
「この子なんです。」と、逢わせたら聖職者は、桃李の姿に思わず驚いた。
「藤田ミラノだね。驚いたな、昔好きだったんだよ。知ってる?」
「いえ・・・。残念ですけど、美術館とかは余り行ったことないから。覚えておきます、藤田ミラノ・・・?」
「撮影が終わったら見てみる?」
見せたいのだろうと思う。そんな気がして頷いた。
「よろしくお願いします。」と、進み出た桃李は、背が低いのでどうしても相手に向けて上目遣いになる。「あれは、絶対金になるな。」と、成瀬が思わず口にし、「だろ?」と答えた花村とふざけてハイタッチした。
*******
最初の写真は、郊外の公園で撮った。
柔らかい髪を明るく染めた桃李が、成瀬の描いた絵コンテ通りのポーズを取ってゆく。
公園の奥にあるベンチに座った桃李は、上着を脱いだ。シャツだけを素肌に羽織り、足を広げ、その間に男と分かる人物が座る。
桃李はのけぞって、雨に打たれる。閉じた目尻から雨とも涙ともつかない滴が転がり落ちてゆく。
安く上げるため、散水用のヘッドを掲げた花村のスーツもびしょ濡れだった。
「この構図ね、昔読んだ少女漫画にあったんすよ。すごい衝撃で、いまだに覚えてるんです。何やってるか、自分の経験で想像が広がっちゃうんですよね。あ、妄想か。」
喜々として、少女マンガを語る成瀬が笑える。桃李の緊張を解してやろうとしているのだろう。いつしか、強張っていた頬から自然に笑みがこぼれていた。
教会の板床に転がった一枚は、全てを脱いで横たわった物だ。
「見ようによっては、事後のけだるさに見えるだろう?」と、成瀬は片目を瞑ってみせた。
桃李は、向い合せに青年と頭をくっつけて、薔薇の花の中に埋もれていた。ファインダーを通した花村が思わず息を呑んだ。凌辱された天使の上に、ステンドグラスの色の欠片が散っていた。
(´・ω・`) 桃李:「藤田ミラノって・・・?」
「挿絵画家から、海外へ行きポスターなどで成功した。
1950~60年代の『女学生の友』『ジュニア文芸』『コバルト・ブックス』の表紙・口絵に抒情画を描いて人気を博した。」
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