びいどろ時舟 13
「まだ、ほんの子どもじゃないか。可哀そうに。」
「そういう場所に生まれたのさ。生きるのに骨が折れる選択肢の少ない時代だから、仕方がない。」
「栄養状態が、ひどいな。経口摂取はできているのか?」
「少量。しかもこの子は、まだ運よく有りついているほうだと思うよ。売れっ子の姉のおかげでね。」
「運がいいほうで、こうなのか・・・栄養失調で湿疹が出ている。この子の姉も娼婦なのか?」
シンは、矢継ぎ早に繰り出されるセマノの質問に、答え続けた。
「いや、そこは違うよ。花街には位が有るんだ。彼女の役職は最高位の太夫だから、売色行為は稀だね。むしろ芸事を披露するために・・・」
話を聞くのに飽きてきたのか、寝台に横になった鏡は小さなあくびを一つして、又、とろとろと眠ってしまったようだ。
無防備にころりと横に寝返りを打つと、裾前が開いて、腿から尻まで露わになり、紅の下帯が見えた。目を引く紅い布にセマノが気付いた。
「・・・この奇妙な紅いものは、何だ?」
シンは、その時代の女性用の生理用品だと説明し、女将との詳しいやり取りを告げた。
「へぇ・・・じゃ、これも資料として入れておくかな。」
何気なくぴらとめくって形態を確かめようとした時、はっと気付いた鏡が、飛び上がって、「いやぁっ!」と、か細い悲鳴をあげた。
咄嗟に、逃げようとした鏡の両肩を寝台に押さえつけたセマノに、シンが放せと声をかける。
「駄目だ、セマノ。この子は、ほんの少し前に襲われかけた所だから。ほら、早く放してやらないと怯えている。」
慌てて手を放したセマノの横を顔色を無くしてすり抜けて、鏡は寝台以外何も無い部屋の中を逃げ惑って突っ伏した。逃げ場はどこにもなかった。
「こんなに、驚くと思わなかったな。これから、どうすればいい?」
「全く。この小さな生き物は、ぼくの理解の範疇を超えるなぁ・・・」
理詰めでしかものを言わない優秀な研究者が、過去の時代の子供に翻弄されて困っているのを見て、シンはくすと笑った。
「や・・・やめてくれんね・・・はなしてくれんね。たのむけん・・・たのむけん。」
部屋の片隅で頭を抱えて、丸く小さくなった鏡の背にそっとシンが触れた。
「・・・い、いやっ、いやばいっ・・!」
触れた場所が、びくっと静電気が走ったように身じろいだ。
「鏡坊、大丈夫だ。誰も、何もしやしないよ。ほら。こっちをよく見てご覧。ここに居るのは髪結いの新さんと、君の大好きな親切なかぴたんさんだけじゃないか?」
「新さん・・・、かぴたんさん・・・」
おずおずと、顔を上げてしばらく二人の顔を見比べていたが、やがてぽろと涙を零すと、声が漏れないように口を覆ってもう一度丸くなった。大きな瞳からは溢れるように涙が堰を切って零れ、引きつるような嗚咽が止まらなかった。
「うーっ・・・うーっ・・・。」
「この子は・・・いつも、こういう泣き方をするのか?静かな烈しい泣き方だな。」
決して感情を表に出さない、優秀なセマノの何かが揺らいだことに、シンは気が付いていた。震える鏡の背中に手を触れたくて、セマノの手は空で彷徨っている。
「泣くたびに声を上げるなと、生まれた時から暴力を振るわれてきたら、誰だってこうなるのさ。」
「たとえ、君でもね。優秀なセマノ。」
(´・ω・`) 此花:「キス場面すらない・・・この話、これでいいのか?」
(`・ω・´)鏡:「じゃあ、脱ぐ!」
(*´・ω・)(・ω・`*)シン:「色気も何もない、つるつるのが脱いだって・・・ね~」
セマノ:「どうせ付いてるのも、ちっこいぴんくのぞうさんだし・・・。」
ヾ(。`Д´。)ノ鏡:「くそ~~~!」←
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