一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 4
どうやら頭が弱いわけではなく、嘘を言ってる風でもない。
という事は、本当に『雪男』ということなんだろう。だけどもしそうなら、直の事このままここにおいて置くわけにもいかないだろう。
「は…はくしゅん!」
「ぅわ~…何、この設定温度、まじ寒いんですけど~。」
そいつが触っているリモコンの温度設定を見て、思わず二度見してしまった。…16度ってありえないだろう。外は今日、35度超えてたよ。
思わず身震いしてしまったが、最初に比べて幾分落ち着いたように見えるので、我慢することにした。
ざっと肌が粟立つのに耐えながら鼻をすすっていたら、携帯の着信に気が付いた。
三崎からだ。
もしかすると、自分のせいで俺が退職することになってしまったと心を痛めているに違いない。気の弱いあいつに、何の声も掛けてやらなかったのを、今更思い出した。
「はい、柳。」
「せ…先輩。あの…あの…ぼく、どうしたら。」
「(やっぱり、泣いてたな。)三崎。悪いのはお前じゃなくて、あいつの方だ。いいな、お前は何も悪くないんだから、気にするな。会社から帰って、家に居るのか?…は?俺のマンションの下…?」
「え、ええーーーっ…」
ベランダから階下を覗き込んだら、しょんぼりと顔を伏せて電話を握り締めている三崎が見えた。三崎は元々、中学からの部活の後輩で、まるで俺を年の近い兄貴か何かのように慕って来る。エスカレータの中高大と一緒で、同じ会社を受けたのは春に知った。
口下手で引っ込み思案、その大人しめの性格はガキのころから何も変わらない。
「俺の部屋は404号室だ。上がって来いよ。正面のホールにエレベーターが見えるだろう?」
「はい、あります。わかりました。」
…と、気軽にそこまで軽く会話して、そこにいるマッパの『雪男』が目に入った。
「あっ!三崎、おれがそっち行くからっ。あいつと御対面は…やばいって。切れてるし・・・。」
来ちゃった♡…なんて、ドアを開けた三崎がいう訳もないが、この状況は余りにもまずいと思う。すっぽんぽんの長髪の美形の男と(しかも湯上がりたまご肌?)、二人きりで何をやってるんだと思われてもおかしくない。
極めて深刻な話をしに、三崎は胸を痛めてやってきたのだ。真面目な三崎はきっと、あれから一人で責任を感じて泣いていたに違いない。
可愛い後輩に妙な誤解をされるまえに、この危機的状況を回避しないと!
取りあえず寝室に雪男を放り込み、大切な客が来るから、絶対出て来るなと言い含めた。
ほら、玄関チャイムがもう鳴った。
「なるべく話は手短に済ませて、帰らせるから、静かにここに居てくれよ。頼むから、いいな。出て来ないでくれ。」
「委細承知。」
ああっ、それどういう意味~!!って、突っ込みを入れる時間もない。雪男が寝室に消えてすぐ、玄関の扉が開いた。
しまった、玄関の鍵掛けてなかったかも!
危機一髪。
「来ちゃった…♡」
「三崎。」
それ…絶対おかしいだろ~?
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