一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 6
もう少し、綺麗な名前を付けてやれば良かった。いくらなんでも、ネーミングセンス無さすぎだろ、俺…と思ったけれどもう遅い。
「こいつな、田舎から遊びに来てたんだが、ちょっと体調崩して寝こんでいたんだ。ほ、ほらっ…まだ顔色が良くないから休んでないとっ、な、ゆきお!」
「ああ…雑作をかけたが、すっかり良くなり申した。かたじけ…。」
「わ~~~~!!」
何ちゅう日本語だ。雪男!俺は焦りまくって、寝室に雪男を放り込んで、後ろ手にドアを閉めた。いくらなんでも、「かたじけない」はないだろう。ほら、三崎が不思議そうな顔をしているじゃないか。でも良かった、すっぽんぽんじゃなくてガウンを羽織っていたのに心底ほっとする。真っ白で綺麗なんだが、それだけに三崎が誤解しそうだ。
「無理しないで、休んでろ。な。」
ドアの向こうで、小さく分かったと声がした。小さく安堵して、三崎に向き直った。心配そうな顔で、寝室のドアを見やっていた視界を俺の身体で塞ぐ。
こぼれそうな瞳が俺を捉えた。
「ぼく、思い切って先輩の家を訪ねて良かったです。一人で考えていると、何か悪い考えばかり浮かんで…二度と先輩に逢えなくなるんじゃないかと思って、昨日からずっとぐるぐるしてました。」
「そうか。三崎は優しいからなぁ。あのおっさんに、そこに付け込まれちまったんだな。でもな、優しいってのは良いことだけど、いつもそれが正しいとは限らないんだ。優しいのと弱いのは似ているようで別なんだ。優しくて強い男になれよ、少しずつでいいから。」
はにかんで俺を見つめる三崎に、戦隊物のくさい台詞のようだと思いながら俺は語った。三崎はじんわり涙を浮かべて俺の言葉を聞いている。
黙って聞いてるやつが傍にいるって、いいよなぁ。可愛いぞ、三崎。
*******
明日、定時にちゃんと出社すると約束を取り付けて、三崎は帰って行った。
強さも乱暴や強情と似ているが、そうじゃないってところを三崎に見せてやらないと。
何だか、三崎の親父にでもなった気分だ。二つしか違わないけど。
雪男は、ガンガンに冷やした寝室で、ぐったりとしている。
「おい、大丈夫か?」
「…心配御無用…。」
「そうか。聞きたいことが山ほどあるんだが、話をしてもいいか?」
だるそうな視線を空に向けて、雪男はどこかぼんやりとしている。手短に頼む…と小さな声がした。
「あのさ、まだしばらくはこのままで居られるのかどうか、聞きたいんだ。したいことがあるなら、俺で良ければ手伝うけど?」
「これほど長く、地上に留まる気はなかった。本来なら、弥生花見月には、溶けるはずだったのだ。我ながら、未練なことだ。」
弥生花見月…頭の中で漢字を書いて、ああ、三月のことねと納得する。どうやら、その未練がこの暑さの中でも溶けずにいた理由らしかった。
「聞いてもいいか?…その…差支えなければ。」
「面妖なやつだ。」
面妖…ねぇ、それ、どういう意味…?
何とか、間に合った~~~!(*⌒▽⌒*)♪
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感想、コメントもお待ちしております。
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「こいつな、田舎から遊びに来てたんだが、ちょっと体調崩して寝こんでいたんだ。ほ、ほらっ…まだ顔色が良くないから休んでないとっ、な、ゆきお!」
「ああ…雑作をかけたが、すっかり良くなり申した。かたじけ…。」
「わ~~~~!!」
何ちゅう日本語だ。雪男!俺は焦りまくって、寝室に雪男を放り込んで、後ろ手にドアを閉めた。いくらなんでも、「かたじけない」はないだろう。ほら、三崎が不思議そうな顔をしているじゃないか。でも良かった、すっぽんぽんじゃなくてガウンを羽織っていたのに心底ほっとする。真っ白で綺麗なんだが、それだけに三崎が誤解しそうだ。
「無理しないで、休んでろ。な。」
ドアの向こうで、小さく分かったと声がした。小さく安堵して、三崎に向き直った。心配そうな顔で、寝室のドアを見やっていた視界を俺の身体で塞ぐ。
こぼれそうな瞳が俺を捉えた。
「ぼく、思い切って先輩の家を訪ねて良かったです。一人で考えていると、何か悪い考えばかり浮かんで…二度と先輩に逢えなくなるんじゃないかと思って、昨日からずっとぐるぐるしてました。」
「そうか。三崎は優しいからなぁ。あのおっさんに、そこに付け込まれちまったんだな。でもな、優しいってのは良いことだけど、いつもそれが正しいとは限らないんだ。優しいのと弱いのは似ているようで別なんだ。優しくて強い男になれよ、少しずつでいいから。」
はにかんで俺を見つめる三崎に、戦隊物のくさい台詞のようだと思いながら俺は語った。三崎はじんわり涙を浮かべて俺の言葉を聞いている。
黙って聞いてるやつが傍にいるって、いいよなぁ。可愛いぞ、三崎。
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明日、定時にちゃんと出社すると約束を取り付けて、三崎は帰って行った。
強さも乱暴や強情と似ているが、そうじゃないってところを三崎に見せてやらないと。
何だか、三崎の親父にでもなった気分だ。二つしか違わないけど。
雪男は、ガンガンに冷やした寝室で、ぐったりとしている。
「おい、大丈夫か?」
「…心配御無用…。」
「そうか。聞きたいことが山ほどあるんだが、話をしてもいいか?」
だるそうな視線を空に向けて、雪男はどこかぼんやりとしている。手短に頼む…と小さな声がした。
「あのさ、まだしばらくはこのままで居られるのかどうか、聞きたいんだ。したいことがあるなら、俺で良ければ手伝うけど?」
「これほど長く、地上に留まる気はなかった。本来なら、弥生花見月には、溶けるはずだったのだ。我ながら、未練なことだ。」
弥生花見月…頭の中で漢字を書いて、ああ、三月のことねと納得する。どうやら、その未練がこの暑さの中でも溶けずにいた理由らしかった。
「聞いてもいいか?…その…差支えなければ。」
「面妖なやつだ。」
面妖…ねぇ、それ、どういう意味…?
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