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紅蓮の虹・7 

しなやかな野獣のような、父親と名乗る男は俺に何の説明もしなかった。

側にいる、爺さんはそんなわけの分からない有様を、涙ぐみながら静観している。

「旦那さま。こんなにお喜びになって・・・」

違う気がする・・・

「爺さん、こいつを何とかしてくれ。」

「暑苦しいって!」

わたしの虹・・・と、首にかきついたまま繰り返す男は、シトラスのいい香りがした。

言っておくけど、俺は誰かの持ち物になったことなんてないし、これからだってなるつもりもない。

「おっさん。聞きたいことが山ほどあるんだ。」

やっと引っぺがした父親は(面倒くさいので、もういいや父親で・・・)黒曜石みたいな澄んだ瞳で、俺の顔をのぞき込んだ。

「当然の権利だ。」

「何でも聞いてくれ。わたしの虹。」

だ~か~ら~!

いちいち「わたしの」ってつけるのもやめてくれ。

こっ恥ずかしいからっ!



「何から聞きたい?」

そんな満面の笑顔でのぞき込まれても、困るっつ~の。

だいたい施設育ちは、うんと人恋しくなるタイプか、誰も信用しないタイプに別れるんだと思う。

おっさん、残念ながら後者なんだ、俺。

「爺さんが施設長に言った、ふざけた身の上話、あれ嘘だろ?」

父親は目をみひらいた。

「本当のことを言ってくれ。」

「きっと驚かないから。」

父親は、倒れていた椅子を起こすと、長い足を組んで腰かけた。

「利口だな、わたしの虹。」

「では、この旗に見覚えはあるか?」

指を鳴らすと、壁面のドレープの寄った布がするすると開いた。




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