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紅蓮の虹・14 

「真っ直ぐ飛べるかどうかはわからないけど、とにかく一度、やってみなきゃね。」

こいつと一体になるって・・・?

あれかな、多重人格みたいな感じになるのかな・・・?

「こっちよ。」

部屋数の多い洋館は、迷子になりそうだ。

まだ昼前だと言うのに、暗幕を張った広い部屋に陽光はなかった。

足元にあるのは、何かの陣形だ。

衣類は、有無を言わさず、全て外すようにと言われた。

「異物が混入しては具合が悪い」のだそうだ。

「これって、悪魔を召喚する魔法陣じゃないの?」

「俺、似たようなのみたことあるよ。」

急かされて俺は、イレーネを中心にコウゲイと手をつないだ。

爺さんは昨夜みた、古い旗をうやうやしく捧げ持っていた。

ゆっくりと足元が揺れた。

陣から風が吹き上げてくる。

イレーネは髪を逆立てたまま、ずっと呪文(?)を唱えていた。

つないだコウゲイの手が、火のようだ。

食い入るように俺をを見つめるコウゲイの瞳が燃えあがった。

紅い瞳・・・そいつは俺と同じだった。

俺の髪も逆立ち、足元は立っているのか浮いているのか感覚がなかった。

時間の流れも良くわからない・・・




つないだ手が変化し始めていた。

透明な小さな三角形の模様が浮かんでは消えた。

指先が透明になってきて、俺は戦慄した。

指先からこのまま熔けて、俺は一体何になるんだ・・・?

わずかな疑問が、俺を現実の世界へと引き戻した。

ショートするように、青白い火花を上げて、俺とコウゲイ、イレーネの三人は陣内に崩れ落ちた。

何もまとっていない裸の胸がひどく痛んだ。

肩先から袈裟懸けにみみずばれが広がって、何か鋭利な刃物で切られた跡のようだ。

きっと俺の顔は今、蒼白なんだと思う。

「わたしの虹。大丈夫だ、これは古傷だから、忘れておしまい。」

俺のせいでしくじったのに、コウゲイは不思議と優しかった。

ただ、両腕が悲惨な状態になっていた。

思わず、声がひっくり返る。

「うわ・・・わっ!」

先ほど浮かび上がった三角状の模様は、重なり合った鱗になってびっちりと、俺の肌に定着していた。



「う、腕が何か、魚の鱗みたいになってる・・・」

泣きべそをかいた俺に、コウゲイは笑った。

「そんな綺麗な魚がいるものか。」

「一息したら、もう一度始めてみよう。」

「わたしの虹。君が柔軟な神経の持ち主でよかった。」

余り、物事に執着しないのは、いつかこんな日がくるのを本能で知っていたってことなのか・・・?

上手く丸め込まれて、俺は再度陣の中に立った。


幾たびかの中途半端な変身を繰り返し、そのたび鱗は広がってゆく。

やがて全身が大きな暖かい光に飲み込まれたとき、真っ白なスパークに周囲は輪郭をなくした。

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