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露草の記・参(草陰の露)24 

義元は施術の後、願を掛け、堂に籠もった。

護摩を焚き、殆ど飲まず食わずの状態でひたすら快癒の祈りを捧げ始めた。
朝、昼、夕刻の決まった時間にだけ現れて、肌を粟立てながら経を唱え冷水を被る。
人払いした井戸端で、黙々と水垢離を取る義元の様子に、さすがに秋津も声をかけた。

「義元さま。そこまでしては、お身体が悲鳴をあげますぞ。殿も兼良さまも、ひどく心配しておいでじゃ。」

(あ……。秋津さま。)

白装束の義元が澄んだ目で、秋津に微笑んだ。

(わたくしは大丈夫です……。細くとも頑健にできておりますから……。そう、お二方にお伝えください。)

(手を尽くした今、義元に出来るのは、こうして神仏に願うだけですから……。)

華の顔に滴る水を拭いもせずに、ふんっと気合を入れ手桶を抱え上げた。
歯の根が合わず、紫色の唇を震わせながら何度も何度も水を被った。
禊(みそぎ)を重ねなければ、血に穢れた不浄の自分は、祈祷の座にすら着けないような気がしていた。
食を断ち、どこまでも身を薄く削りながら、義元は一心に祈っていた。

(汚穢不浄(おえふじょう)の濁水のごとき者が、己が身勝手で神仏に祈るのをお許し下さい。)

(秀幸さまの被る全ての辛苦を、何卒、我が身にお移しくださいますように。)

声にならない叫びが、その身体から迸る様だった。
もろもろの菩薩、もろもろの善神、天龍八部衆さま……と、義元は祈った。

(義元はこの先朽ち果てるまで、永世苦を受けようとも、深い悪道に堕ちようとも、悔いませぬ。秀幸さまがご無事なら、煉獄で焼かれても笑っていられます。
ですから、災禍は全てこの身にお与えくださいますように……。)

殺生を重ね続けた自分の過去を詫びながら、ただひたすらの祈りを捧げる義元を、神仏はどう見ただろうか。護摩壇の火が高く昇り、不動明王の顔を照らした。

祈りても験(しるし)なきこそ しるしなれ、 
おのが心のまことならねば……

たった一つの、煌く澄んだ真心がそこにあった。





話の都合で、本日分は短いのです。
すまぬ~……(´・ω・`)

ギギたんは、これほど秀幸が好きですが、報われませぬな……。

本日もお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチもありがとうございます。此花咲耶

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