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露草の記・参(草陰の露)25 

そして……。

義元の命がけの切ない祈りは、神仏に確かに届いたのだ。

*****

一月余り堂に籠もり、日々、身を冷水で清めながら神仏に祈りを捧げた義元が、藩医の口から秀幸と照姫の病状の軽さを告げられたのは、とうとう見かねた兼良が止めさせようと、扉を蹴破り押し入ろうとした時だった。

幽鬼のように目だけを光らせた義元が、静かに祈り続けていた。

「義元……。秀幸と照姫は快癒じゃ。ほとんど痕も残っておらぬそうじゃ。」

(ま……まことで……ございますか……。父上……。)

「藩医がそう申した。そなたの手柄じゃ。そなたの秘術が効いた。」

(あ……。)

「義元っ!」

容態を聞き、大願叶ったと知り、義元は支える兼良の胸にがくりと崩れ落ちた。父の胸に縋って世もなく幼子のように、声を上げて咽び泣いた。

(うっ……あぁ……っ……)

(あぁ……うれし……。)

震える嗚咽を漏らす痩せ細った息子を抱いて、兼良は義元の内なる深い思いに気持を馳せた。

「こうまでして、おまえは……。」

願を掛けた義元は、米・麦・粟・豆・黍の五穀を絶っていた。どう説得しても頑なにそれらを口にしなかった。
見る影もなく痩せて、頬のこけてしまった義元を抱き上げ、ようよう取り寄せた西国の唐芋(サツマイモ)を煮てやって、兼良が手ずから木匙で口に運んだ。

「義元……。それほどまでに、秀幸が大事か?」

(はい。これでもう……義元は、今生に思い遺したことは……ありませぬ。)

「許せよ。秀幸の朴念仁は、義兄上に似たのだ。」

(朴念仁……は、ひどうございます。)

血のつながりのない義父が、息子の透明な笑顔の裏を探った。

「どうせ、あの頭でっかちは、照姫以外の側室も置かないつもりだろうよ。切ないのう。」

(父上、もしや思い違いをされております……?)

「わたしには隠さずとも良い。傍目からは丸わかりだ。」

(いいえ……。義元が若さまに向けるこの思いは、色恋などではございませぬよ。)

そうなのかと、訝しげに父が問う。

(はい。闇夜に彷徨う旅人が、行く手にやっと見つけた常夜灯とでもお思い下さい。)

(若しくは……枯れる間際の露草が、天からの慈雨を待ち焦がれているところに観音さまが下された甘露のようなものです。)

それは、そなたの買いかぶりだと義父、兼良は笑った。

「元服したとはいえ、あやつはまだまだ幼い。」

義元の言う甘い露の話は中国の伝説である。天子が仁政を施すと天が感じて降らすというものだが、秀幸のどこに慈雨と例える理由があるのか、兼良には分かりかねた。
兼良にとっての秀幸は、目前の息子よりもはるかに幼い存在でしかない。

(いえ、まことに……そう思っておりまする。)

(義元は、わかさまに出逢って、初めて草から人になりました。)

「さあ。もう話は後にして、ともかく食せよ、義元。」

(もう十分、おいしくいただきました。父上。)

(少し……眠ります……。父上の腕の中はずいぶん居心地がよく……このまま……抱いて……。)

閉じた瞼の陰を濃くして、兼良の腕の中で義元はすうっと眠りに落ち、軽い寝息を立てた。

*****

ひたむきな義元の祈りが、双馬藩を救ったと皆口々に義元を称えた。。
双馬藩の嫡男と許婚を救って、やっと安堵した小さな横顔。

何かにつけていわれのない噂が立っていたが、これでもう誰も義元の出自について何も言わなくなるだろう。
文字通り忠義の鏡として、今や領民からも「紅龍さま」と二つ名で慕われている。
以後、双馬藩では痘瘡に罹って命を落とすものはいなくなる。

不本意に手放さずに済んだと兼良は喜び、胸を撫で下ろした。





。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。おギギ (よかった~。若さまが助かった~。)

(`・ω・´) 兼良ぱぱ 「そちの手柄じゃ。」

本日もお読みいただきありがとうございました。
……小説のストックがこれでお終いなのです。ちょっと、困っています。
キリ番リクエストはなかったのですが、自分で勝手にお祝いして何か書こうと思っています。例えば……

(`・ω・´) 「とてもBLらしい作品!」←墓穴……無理っ。


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