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露草の記・参(草陰の露)27 

天駈ける紅龍が姿を現し、双馬藩を恐ろしい天然痘の脅威から守ったと、近隣諸国まで噂は走った。
実際、天が加護したと言われても不思議はないほど、他藩に比べ双馬藩では天然痘の犠牲者は少なかった。いち早く藩主の命で、藩医が義元の施術を習い覚え、町医者を呼び指南したせいで、百姓町民に至るまで同じように尊い命が救われた。

義元を失った秀幸の気落ちは、傍目にも酷かったが、懸命に照姫が支え、一見落ち着いたかに見える。
恐ろしい病の嵐も去り、今度こそ平和を得た双馬藩では、三国一の花嫁御料、佐々井家の照姫を迎え、嫡男安名秀幸の婚儀がつつがなく執り行われた。

義元の坐るはずだった兼良の隣席に、照姫が義元によく似た雛人形をそっと座らせた。

「義元さまに一目、晴れの姿をお見せしとうございました。代わりに照のお雛さまに見ていただきます。」

「うん。帰ってきたらうんと文句を言ってやろうな……。」

「わたしの婚儀を欠席するとは……おギギめ。不忠者め……。」

「はい。照も悲しゅうございます。」

秀幸は滲んだ目許をぐいと拭った。

*****

思い合った幸せな二人に、その後ほどなくして玉の惣領が産まれた。

皆、世継ぎの幼子に夢中になり、徳川に手渡した金山で覚えも良い今、相馬藩の行く末は、「終生所領安堵」のお墨付きを得て、徳川が続く限り永世の安寧を約束されている。

双馬藩を救った義元のいない日常に、人々が慣れるのに大して時間はかからなかった。
晴天に一点の曇りもなく、季節はつつがなくゆっくりと廻って行く。

*****

過ぎてゆく時の中、ある日城門前に、涼やかな面差しの一人の少年が現れ、藩主に目通りを乞うた。

砒素中毒の病が長引く藩主に代わり、先ず、兼良が対面した。
今や、秀幸の後見として、国の殆どの差配を引き受けていた。
秀幸が20歳になるこの秋には、藩主とともに隠居する話もできている。まだ若い兼良であったが、義元を失って以来どこか快活さが消えていた。
それほど、義元を失った喪失感は大きかった。

「そちはどこから、来たのじゃ?」

「これより、はるか南でございます。育ての親に、双馬藩へ行くようにと言われて参りました。」

「育ての親……?」

思わず身を乗り出し、性急に問う。何か、関わりがあると虫が知らせた。





(`・ω・´) 「あい。育ての親にございます。」

(´;ω;`) 「おギギ~……」

「照がおりまする。」ナデナデ(o・_・)ノ”(´・ω・`) 「うん……。」

本日もお読みいただきありがとうございます。


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