禎克君の恋人 8
大二郎の姿が見えなくなったのを確かめ、醍醐は母親に打ち明けた。
「今更なんですが、大二郎にはこまどり幼稚園の頃の思い出が、すごく大切な物だったようです。全国を回って色々な学校へも通ったのですが、いつも転校続きで馴染んだらすぐに次の学校へ移らなければなりませんでした。働いているのも、どこか色眼鏡で見られているのを感じてしまうらしくて、学校で浮いているのも、はっきりとは言わないのが余計に不憫でした。」
「そうですか。大二郎くんも苦労したのね。」
「好きでやっている稼業ですが、大二郎には迷惑をかけたと思っております。たまに、この町の話をしましてね……その時だけはずいぶん饒舌で、できれば早く連れて来てやりたいと思いながら、なかなか叶わず、今頃になってしまいました。」
「紅白で演歌歌手の後で踊っていましたでしょう?禎克は遠征中でしたけれど、湊は大喜びで見ていたんですよ。ねぇ、湊。」
「録画もしたしね。さあちゃんはきっと、少しは覚えていると思うな。大二郎くんと一緒に二人で写した写真、いつも持ってて大切にしているもの。さあちゃんは、内緒にしているみたいだけどね。」
ふふっと笑って、湊は打ち明けた。
「あら……そうなの?だってあの子、何も言わないから、大二郎くんのこと、てっきり忘れてしまったのかと思ってた。」
「さあちゃんは、昔っから大事なことは絶対言わなかったでしょ。呑気だねぇ、お母さんたら。今でも写真持ってるって、そういう事だよ。大二郎くんがさあちゃんの事どれだけ好きかも、湊にはすごくよくわかったから、さあちゃんにメールしておくね。え……と、合宿はもうすぐ終わりだよね?」
「ええ。確か、明日が最終日じゃなかったかしら。」
「老後の面倒は湊が見るから、さあちゃんの恋愛は大きな心で見守るのよ、お母さん。」
「ええ……。え?ええーーっ、何?さあちゃんの恋愛って何~?どういうこと~。」
慌てふためく母を尻目に、湊は醍醐に目配せした。
「湊は、そういう感は働くのよね。大二郎くんって、結構一途なタイプよね。」
「湊さん。そんな所まで、親子は似るようでございますよ。誰かに命がけで惚れるのは、母親譲りのようです。では、そろそろお暇致します。」
醍醐が立ち上がると同時に、玄関で羽鳥の声がした。
「ちょうど迎えが来たようです。今日は伺えてよかった。又、しばらくはホテルで興行をしますから、お時間がありましたら皆様でお越しください。大二郎の話し相手になってやってください。」
「ええ。是非。湊も楽しみにしてます。」
いつかのように慇懃に腰を折って、柏木醍醐は帰途についた。
*****
深く車に身をうずめた醍醐の顔色は良くない。
「醍醐さん。どうしました?金剛さんの家で何かありましたか?」
「いや。むしろ何もなかったから、大二郎が可哀想だったよ……。羽鳥……。」
「はい?」
羽鳥は醍醐の異変に気付いて、慌てて車を停めた。色を失くして土気色になった醍醐は、口元を抑えて咳き込んだ。
「……おかしい。あ……頭が割れそうに痛い……羽鳥……。」
その場で飲んだ茶を吐き戻し、醍醐はどっと倒れ込んだ。
「醍醐さん!醍醐さん!?」
必死に名を呼ぶ羽鳥の腕の中で、醍醐の意識は深淵へと呑まれてゆく。
「醍醐さんっーー!!」
普通の状態ではなかった。
羽鳥は震える指で、何とか救急車を呼んだ。
なんだかんだ言っても、二人には赤い糸があったみたいです。
でも、その前に大二郎くんのパパがえらいことに……。|゚∀゚)
ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!!!!羽鳥 「醍醐さ~~~ん!!」
本日もお読みいただきありがとうございます。
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「今更なんですが、大二郎にはこまどり幼稚園の頃の思い出が、すごく大切な物だったようです。全国を回って色々な学校へも通ったのですが、いつも転校続きで馴染んだらすぐに次の学校へ移らなければなりませんでした。働いているのも、どこか色眼鏡で見られているのを感じてしまうらしくて、学校で浮いているのも、はっきりとは言わないのが余計に不憫でした。」
「そうですか。大二郎くんも苦労したのね。」
「好きでやっている稼業ですが、大二郎には迷惑をかけたと思っております。たまに、この町の話をしましてね……その時だけはずいぶん饒舌で、できれば早く連れて来てやりたいと思いながら、なかなか叶わず、今頃になってしまいました。」
「紅白で演歌歌手の後で踊っていましたでしょう?禎克は遠征中でしたけれど、湊は大喜びで見ていたんですよ。ねぇ、湊。」
「録画もしたしね。さあちゃんはきっと、少しは覚えていると思うな。大二郎くんと一緒に二人で写した写真、いつも持ってて大切にしているもの。さあちゃんは、内緒にしているみたいだけどね。」
ふふっと笑って、湊は打ち明けた。
「あら……そうなの?だってあの子、何も言わないから、大二郎くんのこと、てっきり忘れてしまったのかと思ってた。」
「さあちゃんは、昔っから大事なことは絶対言わなかったでしょ。呑気だねぇ、お母さんたら。今でも写真持ってるって、そういう事だよ。大二郎くんがさあちゃんの事どれだけ好きかも、湊にはすごくよくわかったから、さあちゃんにメールしておくね。え……と、合宿はもうすぐ終わりだよね?」
「ええ。確か、明日が最終日じゃなかったかしら。」
「老後の面倒は湊が見るから、さあちゃんの恋愛は大きな心で見守るのよ、お母さん。」
「ええ……。え?ええーーっ、何?さあちゃんの恋愛って何~?どういうこと~。」
慌てふためく母を尻目に、湊は醍醐に目配せした。
「湊は、そういう感は働くのよね。大二郎くんって、結構一途なタイプよね。」
「湊さん。そんな所まで、親子は似るようでございますよ。誰かに命がけで惚れるのは、母親譲りのようです。では、そろそろお暇致します。」
醍醐が立ち上がると同時に、玄関で羽鳥の声がした。
「ちょうど迎えが来たようです。今日は伺えてよかった。又、しばらくはホテルで興行をしますから、お時間がありましたら皆様でお越しください。大二郎の話し相手になってやってください。」
「ええ。是非。湊も楽しみにしてます。」
いつかのように慇懃に腰を折って、柏木醍醐は帰途についた。
*****
深く車に身をうずめた醍醐の顔色は良くない。
「醍醐さん。どうしました?金剛さんの家で何かありましたか?」
「いや。むしろ何もなかったから、大二郎が可哀想だったよ……。羽鳥……。」
「はい?」
羽鳥は醍醐の異変に気付いて、慌てて車を停めた。色を失くして土気色になった醍醐は、口元を抑えて咳き込んだ。
「……おかしい。あ……頭が割れそうに痛い……羽鳥……。」
その場で飲んだ茶を吐き戻し、醍醐はどっと倒れ込んだ。
「醍醐さん!醍醐さん!?」
必死に名を呼ぶ羽鳥の腕の中で、醍醐の意識は深淵へと呑まれてゆく。
「醍醐さんっーー!!」
普通の状態ではなかった。
羽鳥は震える指で、何とか救急車を呼んだ。
なんだかんだ言っても、二人には赤い糸があったみたいです。
でも、その前に大二郎くんのパパがえらいことに……。|゚∀゚)
ウワァァ-----。゚(゚´Д`゚)゚。-----ン!!!!羽鳥 「醍醐さ~~~ん!!」
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