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禎克君の恋人 9 

醍醐が倒れたのをまだ知らない大二郎は、その頃ゆっくりと懐かしい道をたどっていた。
誰にも気づかれないように、いつものように、深く帽子をかぶっていた。

ふと見やった坂の三差路から、自転車が来るのが見えた。
ついさっき、湊に見せてもらった写真の中と同じ色のジャージに目が留まる。
まさか……とおもいながら、目が離せなくなる。
少しずつ近づいてきた自転車の少年の輪郭がはっきりしてくると、大二郎は思わず一歩足を進めた。大二郎の知る幼い禎克の面影が、わずかに感じられた。

「さあちゃん……?」

自転車の少年が、大二郎に気が付いたのか、笑顔で片手を上げる。
心臓が早鐘のように打つのを感じた。

(うっそ。おれのこと、覚えていてくれたの……?)

まさか……と思いながら、上気した大二郎が声を掛けようとしたとき、少年が声を発した。

「上谷先輩!」

「……え?」

「遅いぞ!金剛!道に迷ったかと思ったから、迎えに来た。」

「やだなぁ。地元だって言ったじゃないですか。どんだけ過保護ですか。」

大二郎の背後から近寄ってきた誰かに声を掛け、禎克はそこにいる大二郎には目もくれなかった。禎克の笑顔が、自分に向けられたものではないと知り、大二郎は上げかけた手を何事もなかったかのように握り込んだ。

いたたまれなさが這い上るのを抑えきれず、小走りで大二郎はその場を大急ぎで去った。
この町に来るべきじゃなかった。

「ばかみたいだ……おれ。」

一人ごちたその時、携帯のバイブが揺れた。

「羽鳥?珍しいな。」

「……おれだけど。」

「大二郎っ!今、どこだ!?」

尋常ではない声に、何かを感じた。

「ホテルの坂の下だよ。もうすぐ着くけど、何かあった?急ぎの仕事?」

「醍醐さんが倒れた。」

「え?」

「大二郎。醍醐さんは緊急手術することになる。とにかく急いで来てくれ。」

ついさっきまで一緒に居たのに?

「ホテルに戻ったら、すぐにタクシーで第一滋慶大病院まで来い。いいな。」

羽鳥の声はいつになく切羽詰まっていて、大二郎は駆け出していた。
一体どういう事なのか、何が起こったのか、仔細はまるで分らないが、一刻も早く来いと羽鳥が言うからには、大事なのだろう。

「手術って……。」

唯一の身内を案じる大二郎に、暗い不安が押し寄せてくる。




(´・д・`) 手術ってどういうこと……?

せっかくの再会は、空振りに終わってしまいました。
どうなる、大二郎とさあちゃん。

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