夏の秘めごと 18
一体何を話すと言うのだろう。
禎克は、今日明日の休みで、何とか気持ちを立て直すつもりだった。
禎克の曇った表情と、思わず力の入った拳を見て、大二郎の細い柳眉がくっと上がった。
営業用の儚い優しげな笑みを浮かべると、上谷に向かって声をかけた。
「初めまして。柏木大二郎と言います。禎克くんの幼馴染です。」
「知っている……。きみの舞台は先日見せてもらった。金剛に教えてもらって、初めて大衆演劇を観たけど、すごく面白かった。踊っている姿も綺麗だった。」
「ありがとうございます。さあちゃんの、先輩さん?」
「ああ……。」
気まずい沈黙が流れた。
張りつめた空気を裂いて、上谷は深々と頭を下げた。
「金剛。ごめんっ!」
「携帯は不通になっていたし、家に電話しても、まだ帰っていないと言われて、きっと、ここに居るだろうと見当をつけた。本当にごめん。どんなに謝って、なかったことにはできないだろうけど、頼む。部活は辞めないでくれ。」
禎克はバスケ部をやめる気など、さらさらなかったが、上谷は自分のしたことを考えると、禎克がもう二度と、自分の前に現れなくなるだろうと考えたらしい。
青ざめて、心底悔いているような顔だった。
大二郎は、ちらりと上谷を見やった。
「ねぇ。」
「さあちゃんは、あんたのことをすごく信頼してたんだぞ。何で裏切るような真似したんだよ。先輩だからって、後輩に付け込むような、せこいやり方で穢すなんて、ひどいんじゃないか?」
「……話したのか、金剛?」
「おれが、気が付いたんだよ。さあちゃんは言えなくて悩んでたよ。人様の顔色読むのは、家業上得意だから、つついて白状させただけだ。」
上谷は苦しげに顔を歪めた。部外者の大二郎に、本当は聞かせたくない話なのだろう。
「そうだったのか。ごめん……。何を言っても、女々しい言い訳にしか過ぎないけど……。」
重い口を開き、上谷は話し始めた。
「達也さん……キャプテンの膝が壊れて、試合に出れなくなった時、先発メンバーに誰を入れるかで揉めただろう?OB の意見で金剛が抜擢されて、一年でインターハイの大舞台に上がった。それは実力からみて、当然だったとおれも思う。」
「だがな、理屈でわかっていても、どうしても引っかかるものが有ってな。インターハイ出場は、おれたちの夢だったんだ。勿論そこで終わりじゃないけど、今回のインハイは最初で最後、二人で出場できる最後のチャンスだった。」
「そんなの、さあちゃんに関係ない。あんたたちの夢が叶わなかったからって、さあちゃんに八つ当たりして貶めるなんて最低だぞ。」
「そう、思う。そう思うけど……一緒に試合に出た時、つい思ってしまったんだ。達也さんなら、ここでこうする。おれが走り込んだら、そこにパスが来る。だから、おれは何度も達也さんの出すパスの軌道で待ってた。」
禎克も静かに口を開いた。
「……ぼくにはキャプテンのように、相手のガードをこじ開けるようなパスは出せなかった。そればかりか、押しこまれて何度も相手にボールを取られた……。そういう事ですよね。試合に負けたのは……ぼくの力がなかったから……。ぼくじゃなくて、キャプテンがあの場所にいたなら勝てたのに、試合を落としたから、あんなことを……。」
「金剛、それは違うっ。」
禎克の話をさえぎって、上谷は叫んだ。
(´・ω・`) 禎克「ぼくが、ちゃんとできなかったから……?」
(`・ω・´)上谷 「違うんだ、金剛。」
( *`ω´) 大二郎 「さあちゃんを泣かす奴なんて、許さないぞ~。」
このお話は、明日で最終回になります。
最後まで、よろしくお願いします。(`・ω・´)
本日もお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチもコメントもありがとうございます。
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禎克は、今日明日の休みで、何とか気持ちを立て直すつもりだった。
禎克の曇った表情と、思わず力の入った拳を見て、大二郎の細い柳眉がくっと上がった。
営業用の儚い優しげな笑みを浮かべると、上谷に向かって声をかけた。
「初めまして。柏木大二郎と言います。禎克くんの幼馴染です。」
「知っている……。きみの舞台は先日見せてもらった。金剛に教えてもらって、初めて大衆演劇を観たけど、すごく面白かった。踊っている姿も綺麗だった。」
「ありがとうございます。さあちゃんの、先輩さん?」
「ああ……。」
気まずい沈黙が流れた。
張りつめた空気を裂いて、上谷は深々と頭を下げた。
「金剛。ごめんっ!」
「携帯は不通になっていたし、家に電話しても、まだ帰っていないと言われて、きっと、ここに居るだろうと見当をつけた。本当にごめん。どんなに謝って、なかったことにはできないだろうけど、頼む。部活は辞めないでくれ。」
禎克はバスケ部をやめる気など、さらさらなかったが、上谷は自分のしたことを考えると、禎克がもう二度と、自分の前に現れなくなるだろうと考えたらしい。
青ざめて、心底悔いているような顔だった。
大二郎は、ちらりと上谷を見やった。
「ねぇ。」
「さあちゃんは、あんたのことをすごく信頼してたんだぞ。何で裏切るような真似したんだよ。先輩だからって、後輩に付け込むような、せこいやり方で穢すなんて、ひどいんじゃないか?」
「……話したのか、金剛?」
「おれが、気が付いたんだよ。さあちゃんは言えなくて悩んでたよ。人様の顔色読むのは、家業上得意だから、つついて白状させただけだ。」
上谷は苦しげに顔を歪めた。部外者の大二郎に、本当は聞かせたくない話なのだろう。
「そうだったのか。ごめん……。何を言っても、女々しい言い訳にしか過ぎないけど……。」
重い口を開き、上谷は話し始めた。
「達也さん……キャプテンの膝が壊れて、試合に出れなくなった時、先発メンバーに誰を入れるかで揉めただろう?OB の意見で金剛が抜擢されて、一年でインターハイの大舞台に上がった。それは実力からみて、当然だったとおれも思う。」
「だがな、理屈でわかっていても、どうしても引っかかるものが有ってな。インターハイ出場は、おれたちの夢だったんだ。勿論そこで終わりじゃないけど、今回のインハイは最初で最後、二人で出場できる最後のチャンスだった。」
「そんなの、さあちゃんに関係ない。あんたたちの夢が叶わなかったからって、さあちゃんに八つ当たりして貶めるなんて最低だぞ。」
「そう、思う。そう思うけど……一緒に試合に出た時、つい思ってしまったんだ。達也さんなら、ここでこうする。おれが走り込んだら、そこにパスが来る。だから、おれは何度も達也さんの出すパスの軌道で待ってた。」
禎克も静かに口を開いた。
「……ぼくにはキャプテンのように、相手のガードをこじ開けるようなパスは出せなかった。そればかりか、押しこまれて何度も相手にボールを取られた……。そういう事ですよね。試合に負けたのは……ぼくの力がなかったから……。ぼくじゃなくて、キャプテンがあの場所にいたなら勝てたのに、試合を落としたから、あんなことを……。」
「金剛、それは違うっ。」
禎克の話をさえぎって、上谷は叫んだ。
(´・ω・`) 禎克「ぼくが、ちゃんとできなかったから……?」
(`・ω・´)上谷 「違うんだ、金剛。」
( *`ω´) 大二郎 「さあちゃんを泣かす奴なんて、許さないぞ~。」
このお話は、明日で最終回になります。
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