夏の秘めごと 9
疲れていた禎克は、いつの間にか裏口のドアにもたれて眠っていたようだ。
誰かの気配を感じて、目を上げれば小さな影が立っていた。
「さあちゃん……?」
「……。」
逆光の中に、待ち人がいるのを信じられない面持ちで見上げた。ずっと会いたかったから、夢を見てるのかな……と思う。
「さあちゃん。暑いのにこんなところで待っていないで、部屋に入ってれば良かったのに。」
「……大二郎くん?」
「待っててくれたの?メール見たよ。さあちゃん、もしかしてまだ夢の中?」
「ん~……」
大二郎は真横にすとんと腰を下ろすと、禎克の顔を覗き込んだ。
「さあちゃん。ぼうっとして可愛い。襲っちゃうぞ~。」
「……いないかと思った。旗とか無くなってるし。前と一緒だと思った。」
「前?」
「ちびの時。旗が無くなってて……。ぼくは、そのあと泣きすぎて熱出したんだよ。覚えてる。」
「さあちゃんはさ……こんなに大きくなったのに、昔の可愛かったさあちゃんが、今もここにちゃんと居るんだね。」
大二郎は自分の胸をとんとんと小さく拳で叩いた。
「成長してないって言いたいんだろ。湊によく言われるよ。形ばっかり大きくなっても、中身はまるで変わらないって。」
腰を下ろして目線を合わせた大二郎が、ふっと優しく笑った。
「嬉しいって言ってるんだよ?素直で真っ直ぐで、熱いよ。変わらないさあちゃんが、おれにはすごく眩しい。」
「褒められてるとは思えないけど……大二郎くんが嬉しいならいいことにする。そうだ、先に聞かなきゃいけなかった。あれから、お父さんの具合はどう?」
「ん~。少しずつ良くなってる感じだね。頭の血管が切れてしまったから、今すぐ退院っていう訳には行かないよ。さあちゃん、部屋で話しよ。」
「あの……シャワー使わせてもらってもいいかな……。」
「うん?あの部屋はしばらくおれが借りることにしたから、自由に使って。次の興行先が決まったってメールしたでしょ。特急で一時間半くらいかかるけど、毎日通う事にしたんだ。お師匠さんの病院からは近いし、それにさあちゃんと、少しでもこうして会えるしね。」
大二郎は腕を掴むと、ぐいと禎克を立たせた。
「さあちゃん。逢いたかった。」
くっ付いてきた大二郎の、髪の毛の優しい香りが鼻をくすぐった。
「やっぱり、でかいな、さあちゃん。おれ、胸までしかないや。」
「大二郎くんは、何センチ?」
「見え張って167くらいかな~。女形やるには良いんだけどね。でもね、男は二十歳過ぎても伸びるんだよ。」
「ぼくは、バスケット始めるまではずっと前から三番目だった。」
「うん。小さかったよね。前はさあちゃんがおれの胸の所までしかなかったのに、逆になっちゃった。」
他愛のない話をしながら、二人は旧館の古いホテルの自室へ向かう。二人の思惑は違っていた。
大二郎は、禎克と甘い時間を過ごせると思っていた。
禎克は、早くシャワーを浴びて、張り付いた残滓の痕跡を拭い去りたかった。
(〃゚∇゚〃)大二郎 「 わくわく……さあちゃんと何しよう。」
(´・ω・`) 禎克 「早く、ぱんつ脱ぎたいっす……。」
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