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落日の記憶 8 

基尋は本郷宮と別れ、浅黄と二人、花菱楼の建物を見上げた。

「ねぇ、浅黄。大江戸は明治のころに建てられたと言う話だけれど、花菱楼ってずいぶん立派な建物なんだね。」

「若さま。浅黄は何だか胸がどきどきいたします。」

くすっと基尋は優しく笑った。

「ぼくもだよ。でも、大丈夫。こうして手をつないでいれば怖くないよ。お行儀はよくないけれど、ここで一つ金平糖をおあがり。」

「はい。」

「おいし……」

金平糖の甘さに、思わず二人笑い合った。

*****

基尋と浅黄は、仲よく大江戸花菱楼の裏木戸をくぐった。
実家とは比べようもない狭い坪庭らしき場所に、爛漫の梅が咲いているのが見えた。見上げる空は作りもので、投射幕(ホリゾント)というものらしい。人影を見つけて声を掛けた。

「申し。お尋ねいたします。柏宮基尋と申します。本日よりこのお店でお世話になることになりました。何も判りませんが、よろしくお願いいたします。」

頭を下げる基尋の側には、小姓の浅黄の姿があった。
決してお傍を離れないと口にした通り、浅黄は基尋と共に苦界に身を沈める覚悟で大江戸まで付いてきた。
楼主はそこに居ず、まずはやり手と呼ばれる30歳くらいの男が見聞に現れた。

「本郷の宮様に話は聞いて居るよ。……どうれ。顔を良く見せて御覧な。」

武骨な指が、柔らかい頬に食い込んだ。

「なるほど華族の若さまだけのことはある。幼いとはいえ大した器量じゃないかえ。本郷さまもお人の悪い。本当に身を売る覚悟をしてきたのかい?」

「はい……。本郷の宮さまから、花菱楼のお支度金を頂きました。ありがたく頂戴した今は、出来る限りお勤めしたいと存じます。」

片方の口角を上げて男は顔を歪めた。人は穢れの無い者を、汚してみたいと思うものらしい。

「やんごとないお生まれのお坊ちゃま。まずは湯をお使いなさい。身体を浄めて、話はそれからという事にしましょうや。」

「はい。では失礼して湯殿を使わせていただきます。」

「あ……の。若さまが御使いになる湯帷子はどちらにありますか?」

返事の代わりに男はいきなり浅黄の横面を張った。

「きゃあーっ!」

盛大に浅黄は吹っ飛び、何をなさいますと基尋は厳しく男に抗議した。男はどんとその場に片膝を立てた。着物の裾が割れると、腿の内まで墨が入っているのが見えて、思わず息を飲む。

「おいっ。勘違いするんじゃねぇや。現ではご華族様かもしれねぇけどなぁ。……湯帷子などという代物は、この大江戸のどこを探してもあるもんかよ。売られてきたら、まずはまっ裸になって、全身くまなくやり手や男衆に「検めて」もらうんだよ。風呂で後孔の奥まで洗って、使い物になるかどうかちゃんと調べるんだ。新参者が湯を使うってのは、ここではそういう事だ。」

「ひっ……、わ……わかさま……ぁ。」

ガタガタと浅黄は基尋にしがみつき、男の剣幕に怯えていた。
基尋は青ざめながらも、気丈だった。背中に浅黄を庇うと、凛と顔を上げた。

「浅黄はわたしについてきた小姓です。花菱楼でお勤めは致しません。お、お検めというものをなさるなら……わ……わたしだけに……」

「そうかえ?お前ひとりは何をされても構わないって言うんだね?」

声を出せずに基尋は肯いた。

「検めの後は、後孔を広げる。」

「……うしろ……?」

「後孔というのが何処かわかるかい?」

「おいどの最奥の菊門、お前のつつましい蕾の事だよ。そこへ男の持ち物を咥え込み、開いたりつぼめたりする。精を吐かせるのは慣れるまでは死ぬより辛い。お前にそれが出来るかい?」

年少の浅黄をそんな目に遭わせるわけにはいかない。浅黄は家族と別れ、ここまで自分についてきてくれたのだから……と、思った。基尋は固く目をつむった。

だが、そんないじらしい決心は直ぐに打ち砕かれて、基尋は湯屋で高い悲鳴をあげる事になる。






\(゜ロ\)(/ロ゜)/おろおろ……ぴんちです~

[壁]ω・)チラッ……基尋じいちゃん、がんばって~。←

本日もお読みいただき、ありがとうございます。


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