落日の記憶 4
「お父さま。基尋(もとひろ)に出来る事はありませんか?光尋(みつひろ)お兄さまは、戦場からやっとお帰りになりましたけど、ひどいお怪我をなすって療養中ですもの。ぼくが御家の為に何かできるのなら、おっしゃってください。……柏宮の屋敷を守る為なら何でも致します。おもうさま(お父さま)おたあさま(お母さま)に、これ以上のご苦労をおかけしたくありません。」
「優しい子だね、基尋……まだ年若いお前にまで苦労させることになる。すまないね。気持ちだけ貰っておくとしようよ。」
「いいえ。実はお姉さまの式の場で、本郷の伯父さまが、お父さまには良いお返事を頂けなかったのだけれど、ぼくに特別なお話を持って来たのだよとおっしゃいました。ご養子のお話でしょうか?まだ、お父さまにはお伺いしておりませんけれど、まとまったお支度金が頂けると言うお話でした。」
「……いや、あれは……子供にする話ではない。それに、本郷の宮の良い噂を聞かないし、わたしはあれをあまり信用していないのだよ。」
「お父さま。基尋は確かに子供かもしれませんが、柏宮家の男子です。天子さますら莫大な財産を手放そうと言うご時世に、何もしないではいられません。どうか、お隠しにならないで伯父様のお持ちになったお話をおっしゃって下さい。」
父は聡明な黒い瞳を向ける愛し子の肩を、思わず引き寄せた。
固い決心をしている基尋は、視線を外さなかった。
「基尋……お前を奉公に出さないかと言って来たのは、とても普通では考えられないような場所なんだよ。」
「どういう場所なのです……?」
「お前も少しは知っているだろうか。光尋が戦地へ赴く時、料亭上総(かずさ)に多くの芸者衆が登ったのを。」
「はい。海軍将校が多くお集まりで、基尋は出征されるお兄さまの為の華々しい酒宴だと思って遠くから見ていました。」
「……そこに花菱楼の雪華という太夫がいたんだが、見なかったかな。男女郎(おとこえし)の最高峰で現の世界では本来なら見ることも叶わない、大江戸花菱楼の最上級の花魁が光尋の出征の席で舞ったんだ。お前に目を付けたのは、その花魁を抱える花菱楼の楼主だ。」
「……大江戸花菱楼……?」
(´・ω・`) 「……」
本日もお読みいただき、ありがとうございます。 此花咲耶
ドナドナドナドーナ~♪基尋を乗せて~♪ψ(=ФωФ)ψふっ……
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