優しい封印 26
求の脳内は混乱したまま、静寂だった。
何をされても、既に諦めきった求が反応することはなかった。閉め切った部屋に監禁され、凌辱され続けた過去の世界に、求は今もいた。
吊るされた時に、義兄が何度も同じことを言っていた気がするが、疲れ切った求に、もう思考力は残っていない。遠目に胸が小さく上下して、まだ生きていると分かる。
「求~、何でずっとお兄ちゃんの傍に居るって言えねぇんだよ~。」
焦点の合わない目が、反射的にゆっくりと義兄の声の方へと向けられる。理不尽な暴虐に耐え続けた求の身体が限界を迎えようとしていた。
求の口が間島にしか聞こえないほど小さな声で、言葉を発した。
「……兄……さ……ごめ……ん……ね……」
*****
求の知る限り、幼いころから自分を玩具にしてきた義兄は、実の両親に愛されなかった。
愛情を得ようと躍起になればなるほど、返ってくる反応は冷ややかで、腹を立てた準一郎は家の中で荒れた。
世間体を重んじる両親にとって、粗暴な準一郎は出来の悪い息子でしかなかった。暴れるたびに、金で機嫌を取った。本当に欲しいものは理解されず、何も与えられなかった。
ある日、荒れ狂う準一郎の目の前に、親戚の子供として小学五年生の求が連れて来られた。小犬を与えるように連れて来られた求は、夏休みの間、準一郎の側で過ごした。求は準一郎のお気に入りとなり、親の思惑は当たった。
新しい玩具を手に入れた準一郎は、どこへ行くにも求を連れ歩いた。
ある意味、溺愛に近かったが、少しでも離れようとするとひどい目に遭った。
「お兄ちゃん~、ぼく、おトイレに行っただけだよ。」
「うるせぇ。」
「え~ん……怒っちゃやだ~」
「ぴいぴい泣くな!怒ってない。もう殴ったりしない。求はお兄ちゃんの傍にいるんだろ。ちゃんと約束守れよ。約束できるか?」
「や、約束……する。」
執着が求に向かうのを知ると、両親は安堵したようだった。
家庭内暴力を起こさない代わりに、求をずっと傍に置くために養子にしてくれという息子の願いをかなえた。頭の良い求の大学までの費用と、傾いた家業の再建、親類からの融資に求の両親は飛びついた。
間島が高校生の頃から、当然のように求は準一郎の溜まった性の吐け口になった。拒絶する度、激しい暴力の嵐に晒され、いつしか諦めた求は笑わなくなってゆく。
歪んだ愛情と加虐でぼろぼろになった求は、パニックを起こしては何度も病院へ運ばれ、その度に医師に義兄から離れるように勧められた。
絶望の末の自傷の傷が幾つも増え、その度に勝手に傷を作るなと義兄は荒れ狂った。
求が大学に入学する少し前、地元の地回りの893の組事務所に出入りしていた準一郎は、傷害事件を起こし刑務所に入った。さすがにそれを機に両親も求の住所を準一郎に隠し、そのまま求は義兄の前から姿を消すはずだった。
だが、義兄は求を諦めていなかった。
血眼になって求を探した。
*****
「……お終いにしてやるよ。求……。もう逃げまわらないで済むようにな。」
間島の太い腕が、求の首に掛かった。
精を放って天を仰ぎ、固く閉じた間島準一郎の目尻から、涙がつっと流れた。
間島は、嗚咽していた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
間島の心の闇を書いていると、何だかちょっと悲しくなってしまいました。
求めるだけの間島に対して、奪われるだけの求さんはどんな気持ちでいるのか……(´・ω・`)
後、もう少しお付き合いください。此花咲耶
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