優しい封印 19
「おやっさん。どうやら間島ってのはムショから出た後すぐに、向坂不動産のマンションに入っているみたいです。」
「向坂不動産は、関東興産の二つ名だな。周囲が極道マンションって、言ってる所だな。入ってるのも大方極道だろう?」
月虹は肯いた。
「少しは一般人……食い詰めたライターなんぞが入ってるようですが、まっとうな神経の持ち主なら、知らずにうっかり入ってもすぐに逃げ出すでしょうね。」
「違いねぇ。恐ろしい御面相の奴等ばかりだからな。」
月虹はあちこちに電話を入れて足を運び、情報取集に精を出していた。間島の手下が飲みに来たキャバクラで愚痴ったり、噂をしたり、裏の世界の情報は意外に零れて来る。脛に傷を持つものは、自分のテリトリーから余り遠出をすることもないようだ。
まして、間島のように自分の暴力に絶対の自信を持つ輩は、力を吹聴するきらいがある。ムショ帰りで箔をつけ幹部の地位を手に入れた間島が、こぎれいな男を連れ込んで薬漬けにし、ヤりまくっている話は、ある意味、公然の秘密になっていた。
「(喧嘩を吹っ掛ける)カチコミで、相手を殺る奴は関東にはいねぇから、間島のせいで抗争になったと言う話だな。関東興産はシマを広げたがっていたからな。カチコミに間島を使ったって言う事は、上と何かの約束が出来てたんだろう? 」
「戻ってすぐに幹部に昇格したらしいですから、たぶんそうでしょう。間島みたいな武闘派は、組を大きくするときには役に立ちますからね。」
「ムショから出て来てすぐに、自由になった間島は手下を使って涼介の父親を探したって事か。」
しばらく考え込んでいた鴨嶋が顔を上げた。
「月虹。俺ぁ、関東興産の先代の法事に顔出すぜ。紋付用意しといてくれ。」
「わかりました。自分もご一緒してよろしいですか?」
「おめぇを連れてるとなぁ……色ボケ爺が男妾を囲ったって言われるんだよ。派手な面だからなぁ、月虹は。」
細面の端整な顔は、確かに女ばかりか男も惹きつける。そう思われても不思議はなかった。
鴨嶋劉二郎の同級生、風呂屋の親父も内心そう思っているらしい。月虹が銭湯に同道するたび赤面し、何か物言いたそうな顔を向けて来る。
「いいじゃないですか。まだまだあっちも現役だって顔しててください。」
「俺ぁ、アンコ(男同士の女役)には用はねぇ。死んだバシタが極上もんだったからな。」
「ごちそうさまです。お互い、好きな相手が彼岸だなんて切ない話です。」
「……それになぁ。バシタが薬(ヤク)で逝っちまったから、俺ぁ、相手を薬でどうこうする奴は嫌いだ。弱みに付け込むやつもな。古臭いって言われても、こればっかりは譲れねぇ。」
「おやっさんが間島みたいなやつだったら、おれはここにはいませんよ。」
「昔は俺みたいなのが筋者(すじもん)って呼ばれたんだが、今じゃ猫も杓子も筋者だ。涼介の為に年寄りが皺腹かっさばいてやるか。」
「何言ってるんすか。せっかく孫が出来たんだから、せいぜい長生きしてください。おれだって大切な親だと思ってるんですからね。」
「仕方がねぇ。戦支度だ。紙ぱんつ持って来い。Mサイズな。」
「わかりました。」
「大事な所で、ションベンちびるわけにはいかねぇからな。」
何かあった時、粗相するのはみっともないからと、劉二郎はご丁寧に尿取りパッドも装着し、万全を期した。
年をとっても鴨嶋劉二郎は颯爽と格好良かった。
本日もお読みいただきありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪
じいちゃん、かっこいい♪ 此花咲耶
「向坂不動産は、関東興産の二つ名だな。周囲が極道マンションって、言ってる所だな。入ってるのも大方極道だろう?」
月虹は肯いた。
「少しは一般人……食い詰めたライターなんぞが入ってるようですが、まっとうな神経の持ち主なら、知らずにうっかり入ってもすぐに逃げ出すでしょうね。」
「違いねぇ。恐ろしい御面相の奴等ばかりだからな。」
月虹はあちこちに電話を入れて足を運び、情報取集に精を出していた。間島の手下が飲みに来たキャバクラで愚痴ったり、噂をしたり、裏の世界の情報は意外に零れて来る。脛に傷を持つものは、自分のテリトリーから余り遠出をすることもないようだ。
まして、間島のように自分の暴力に絶対の自信を持つ輩は、力を吹聴するきらいがある。ムショ帰りで箔をつけ幹部の地位を手に入れた間島が、こぎれいな男を連れ込んで薬漬けにし、ヤりまくっている話は、ある意味、公然の秘密になっていた。
「(喧嘩を吹っ掛ける)カチコミで、相手を殺る奴は関東にはいねぇから、間島のせいで抗争になったと言う話だな。関東興産はシマを広げたがっていたからな。カチコミに間島を使ったって言う事は、上と何かの約束が出来てたんだろう? 」
「戻ってすぐに幹部に昇格したらしいですから、たぶんそうでしょう。間島みたいな武闘派は、組を大きくするときには役に立ちますからね。」
「ムショから出て来てすぐに、自由になった間島は手下を使って涼介の父親を探したって事か。」
しばらく考え込んでいた鴨嶋が顔を上げた。
「月虹。俺ぁ、関東興産の先代の法事に顔出すぜ。紋付用意しといてくれ。」
「わかりました。自分もご一緒してよろしいですか?」
「おめぇを連れてるとなぁ……色ボケ爺が男妾を囲ったって言われるんだよ。派手な面だからなぁ、月虹は。」
細面の端整な顔は、確かに女ばかりか男も惹きつける。そう思われても不思議はなかった。
鴨嶋劉二郎の同級生、風呂屋の親父も内心そう思っているらしい。月虹が銭湯に同道するたび赤面し、何か物言いたそうな顔を向けて来る。
「いいじゃないですか。まだまだあっちも現役だって顔しててください。」
「俺ぁ、アンコ(男同士の女役)には用はねぇ。死んだバシタが極上もんだったからな。」
「ごちそうさまです。お互い、好きな相手が彼岸だなんて切ない話です。」
「……それになぁ。バシタが薬(ヤク)で逝っちまったから、俺ぁ、相手を薬でどうこうする奴は嫌いだ。弱みに付け込むやつもな。古臭いって言われても、こればっかりは譲れねぇ。」
「おやっさんが間島みたいなやつだったら、おれはここにはいませんよ。」
「昔は俺みたいなのが筋者(すじもん)って呼ばれたんだが、今じゃ猫も杓子も筋者だ。涼介の為に年寄りが皺腹かっさばいてやるか。」
「何言ってるんすか。せっかく孫が出来たんだから、せいぜい長生きしてください。おれだって大切な親だと思ってるんですからね。」
「仕方がねぇ。戦支度だ。紙ぱんつ持って来い。Mサイズな。」
「わかりました。」
「大事な所で、ションベンちびるわけにはいかねぇからな。」
何かあった時、粗相するのはみっともないからと、劉二郎はご丁寧に尿取りパッドも装着し、万全を期した。
年をとっても鴨嶋劉二郎は颯爽と格好良かった。
本日もお読みいただきありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪
じいちゃん、かっこいい♪ 此花咲耶
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