優しい封印 23
「鴨嶋の叔父貴。間島が興奮して暴れると厄介だ。うちの組から何人か助っ人を付けてやりますから。」
「それには及ばねぇよ。手向かいするなって一本入れておいてくれればいい。人手なら何とかなるだろう?」
振られた月虹は、その場に居る連中に向けて、蕩けるような営業用の極上の微笑を浮かべた。
「はい。こちらのお兄さん方には叶いませんが……。それに、うちのおやっさんもまだ現役ですから、頑張ってくれると思います……ねぇ、おやっさん?」
「ばかやろうっ。そういう言い方は誤解されるって、何度も言ってるだろうが。おい、向坂っ。言っておくがあっちの方じゃねぇぞ。月虹っ、もういい。お前は口を開くな、シナを作るな。顔から火が出るっ。」
直もぶつくさ言いながら引き上げる二人を追って、向坂の手下が声を掛けた。
「すみません、月虹さん。……実は向こうは少しばかり厄介なことになっているようです。できれば、あの……おやっさんは、向こうに行かねぇで欲しいんですが……」
「わかりました。親父は、組に連れて帰ります。先に、六郎って言う奴を向かわせましたから、連絡をお願いします。」
「六郎って……鴨嶋組にいるのは、関光連合の元総長の六郎さんですよね。だったら、たぶん大丈夫です。自分も世話になりましたし、間島の兄貴の傍に居るやつらも、六郎さんの事は知ってます。直ぐにマルボウも入ります。」
「六郎はそんな有名人なんですか?知らなかったなぁ……」
くすくす笑う月虹に、向坂の組員はぼうっと見惚れていた。
会釈して去る月虹に、思わずぶんぶんと手を振ってから我に返った。
「おめぇ、何やってるんだ?」
「いやぁ……俺は女一筋だが、あれはすごいわ。何かな、すごみがあるって言うか、壮絶な色気って言うのか。気が付くとおっ勃ってて、もう少し話をしてたら押し倒してたんじゃねぇかと思う。」
「やめとけ。あいつはホストクラブ「幻夜」のナンバーワンだが、あんな面下げて何やら武道の有段者だって話だ。下手すると触る前に、こっちの顔が潰れるぞ。」
「へぇ~、鴨嶋組ってのは小さい組だけど、あの爺さんだけでなく、周りにいるやつもすげぇんだな。」
「そりゃあそうだろ。何しろあの鴨嶋組長が傍に置いてるくらいだ。」
「間島の兄貴、今頃どうなってるかなぁ。あの人、気性は荒いけどおれ等には飯おごってくれたりして、結構漢気あるんだけどな。」
「親父が請け負ったんだ。間島の兄貴のことはおれ等じゃ、どうにもならねぇ。とりあえず、ヤクの現行犯でそのまんま警察(ヒネ)行きだろ。何でも連れ込んでシャブ漬けにしてるのは実の弟って話だが、ありゃやりすぎだ。若いやつら、このまま犯り殺しちまうんじゃないかってぶるってたぜ。血の繋がりも何もない男に、何でそこまで入れこむのか、俺にはわけがわからねぇ。」
「あ。鴨嶋組が一枚かんでるってのに、殺っちまったらうち(向坂)の親父の顔が潰れるじゃないっすか。それってやばいっすよね。親父の顔が潰れるんじゃ……」
「そうだろ?だから、早いとこおめぇも行って止めて来い。あの綺麗な兄ちゃんが現場に着く前に、何とかしろって若頭が血相変えてたが、間に合うかな。」
「と、とにかく行ってきますっ。」
事態は風雲急を告げた。
本日もお読みいただきありがとうございました。
いよいよ、求さんのいるマンションに突入しますっ!(`・ω・´)
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