風に哭く花 8
いつかあの子を、自分のモノにしよう……翔月を見つめる柏木の激しい思いは、人に好かれる容姿の下に見事に隠されて誰も気づかなかった。
柏木は教育熱心な優秀な教師として、内外の信頼も厚い。
放課後、翔月を呼び出して、柏木の思いは半分遂げられたかに見えた。
だが更科翔月の思いは、酷く扱えば尚更、荏田青児へと向かっているようで、それが無性に腹立たしい。
固く目を閉じて耐える翔月は、脳裡に荏田青児を思い浮かべていた。風に弄られる花のように儚げに見えて、翔月は思いがけず強情な面を見せる。
柏木は苛立った。
*****
翔月の想い人の青児は、最近翔月の様子がどこかおかしいと感じていた。だが、翔月は俯いたきり何も言わない。
元々大人しい性格だったし、青児も部活や生徒会の雑用で忙しかった。帰り道、待っている翔月と話をしようと思っても、いつもどうでもいい話にするりと逃げてしまう。
慌ただしく着替えを済ませると、青児は翔月の元へと走った。
青ざめた翔月が心配だった。
視線を感じ、振り返るとロッカー前に翔月がいた。
「翔月、ここにいたのか。待った?」
「ううん、今来たとこ……もう、部活は終わったの?」
「ああ。俺、めっちゃ腹減ったから、付き合えよ。帰りに何か食って帰ろう?翔月、あのさ……」
膨れた目許と潤んだ瞳に、思わず泣いたのかと聞こうとして、実験室から半身でこちらを見る柏木の存在に気が付きやめた。頭を下げたが、様子を伺われているような妙な違和感を感じる。
「なぁに?」
「なんでもない。帰るぞ。自転車取って来るからな。」
いくら華奢でも、翔月はれっきとした男子なのだから、人前で泣いたのかと聞くのはおかしいだろう。それに何かあったら、翔月は自分には隠さず言うはずだと青児は思い直した。
「二人乗りは、見つかったら怒られちゃうよ。」
「具合が悪いんですって、正直に言えばいい。何か最近また白くなったんじゃないか?もう、大丈夫なのか?調子悪いんだったら、先に家まで送るぞ。」
「うん……だいじょぶ。ファミレスいこ?」
「今日さ、二階から手を振っただろ?」
「うん……でも青ちゃん、試合中に投球途中で手なんて振ったら、ボークだよ。」
翔月は自転車の後ろに乗ると、青児に気付かれないように何気なく振り向いて、生物準備室の窓を見上げた。柏木がどこで見て居るか分からない、青児に密着して自転車に乗っているところを見られたら、きっと何か言われると思うと、閉じられた窓を気にせずにはいられなかった。
「翔月?」
「ん~。なんでもないよ。帰ろう、青ちゃん。」
背後からきゅっと腕を回す翔月の様子に、青児はほんの少し安心していた。
学校ではどこかよそよそしかった翔月が、帰り道は素直に背中に身を預けて来る。翔月の鼓動は、いつも早かった。
*****
ファミレスの角の席に座った二人は、久しぶりにゆっくりと話をした。
「汗臭くないか?何か、久しぶりだよな、ここに寄り道すんの。」
くんとジャージの袖口を嗅いだ青児を見て、翔月は珍しく笑った。
「そんなこと言ってたら、自転車の後にも乗れないよ。青ちゃん、昔からずっと野球部だったじゃない。青ちゃんの汗の匂いなんて、平気だよ。」
「翔月さ……、何かあったのか?」
「……どうして……?」
「無理してるじゃないか。翔月の空元気なんて、すぐにわかるよ。柏木先生に何か言われたのか?中間の成績、ひどかったんだろ?」
「……うん。何か最近は勉強が手に付かなくて、全教科ぼろぼろだ……青ちゃんはすごいね。生徒会も忙しそうなのに野球部と勉強、ちゃんと両立させてる。甲子園の地方予選の抽選会って、もうすぐだっけ……」
「ああ。来週だ。もう少し、時間があったら、勉強見てやれるのにな。ごめんな。」
「実力だもん……。脳みそ少ないのは生まれつきだもの、しようがないよ。」
テーブルに置かれた定食の大盛りご飯をかき込みながら、青児は翔月を注意深く観察していた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
昨日はこのちん、久しぶりにやらかしまして、10時半まで下書き保存されていたのに気がついていませんでした。記事が上がっているかどうか、確かめていなかったのです。すまぬ~(´・ω・`)
大急ぎで上げ直したのですが、それ以前に覗いてくださった方、今日はお休みなのかと思われた方ごめんなさい。
今日は二つ読んでください。(〃ー〃)←
柏木は教育熱心な優秀な教師として、内外の信頼も厚い。
放課後、翔月を呼び出して、柏木の思いは半分遂げられたかに見えた。
だが更科翔月の思いは、酷く扱えば尚更、荏田青児へと向かっているようで、それが無性に腹立たしい。
固く目を閉じて耐える翔月は、脳裡に荏田青児を思い浮かべていた。風に弄られる花のように儚げに見えて、翔月は思いがけず強情な面を見せる。
柏木は苛立った。
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翔月の想い人の青児は、最近翔月の様子がどこかおかしいと感じていた。だが、翔月は俯いたきり何も言わない。
元々大人しい性格だったし、青児も部活や生徒会の雑用で忙しかった。帰り道、待っている翔月と話をしようと思っても、いつもどうでもいい話にするりと逃げてしまう。
慌ただしく着替えを済ませると、青児は翔月の元へと走った。
青ざめた翔月が心配だった。
視線を感じ、振り返るとロッカー前に翔月がいた。
「翔月、ここにいたのか。待った?」
「ううん、今来たとこ……もう、部活は終わったの?」
「ああ。俺、めっちゃ腹減ったから、付き合えよ。帰りに何か食って帰ろう?翔月、あのさ……」
膨れた目許と潤んだ瞳に、思わず泣いたのかと聞こうとして、実験室から半身でこちらを見る柏木の存在に気が付きやめた。頭を下げたが、様子を伺われているような妙な違和感を感じる。
「なぁに?」
「なんでもない。帰るぞ。自転車取って来るからな。」
いくら華奢でも、翔月はれっきとした男子なのだから、人前で泣いたのかと聞くのはおかしいだろう。それに何かあったら、翔月は自分には隠さず言うはずだと青児は思い直した。
「二人乗りは、見つかったら怒られちゃうよ。」
「具合が悪いんですって、正直に言えばいい。何か最近また白くなったんじゃないか?もう、大丈夫なのか?調子悪いんだったら、先に家まで送るぞ。」
「うん……だいじょぶ。ファミレスいこ?」
「今日さ、二階から手を振っただろ?」
「うん……でも青ちゃん、試合中に投球途中で手なんて振ったら、ボークだよ。」
翔月は自転車の後ろに乗ると、青児に気付かれないように何気なく振り向いて、生物準備室の窓を見上げた。柏木がどこで見て居るか分からない、青児に密着して自転車に乗っているところを見られたら、きっと何か言われると思うと、閉じられた窓を気にせずにはいられなかった。
「翔月?」
「ん~。なんでもないよ。帰ろう、青ちゃん。」
背後からきゅっと腕を回す翔月の様子に、青児はほんの少し安心していた。
学校ではどこかよそよそしかった翔月が、帰り道は素直に背中に身を預けて来る。翔月の鼓動は、いつも早かった。
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ファミレスの角の席に座った二人は、久しぶりにゆっくりと話をした。
「汗臭くないか?何か、久しぶりだよな、ここに寄り道すんの。」
くんとジャージの袖口を嗅いだ青児を見て、翔月は珍しく笑った。
「そんなこと言ってたら、自転車の後にも乗れないよ。青ちゃん、昔からずっと野球部だったじゃない。青ちゃんの汗の匂いなんて、平気だよ。」
「翔月さ……、何かあったのか?」
「……どうして……?」
「無理してるじゃないか。翔月の空元気なんて、すぐにわかるよ。柏木先生に何か言われたのか?中間の成績、ひどかったんだろ?」
「……うん。何か最近は勉強が手に付かなくて、全教科ぼろぼろだ……青ちゃんはすごいね。生徒会も忙しそうなのに野球部と勉強、ちゃんと両立させてる。甲子園の地方予選の抽選会って、もうすぐだっけ……」
「ああ。来週だ。もう少し、時間があったら、勉強見てやれるのにな。ごめんな。」
「実力だもん……。脳みそ少ないのは生まれつきだもの、しようがないよ。」
テーブルに置かれた定食の大盛りご飯をかき込みながら、青児は翔月を注意深く観察していた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
昨日はこのちん、久しぶりにやらかしまして、10時半まで下書き保存されていたのに気がついていませんでした。記事が上がっているかどうか、確かめていなかったのです。すまぬ~(´・ω・`)
大急ぎで上げ直したのですが、それ以前に覗いてくださった方、今日はお休みなのかと思われた方ごめんなさい。
今日は二つ読んでください。(〃ー〃)←
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