風に哭く花 7
柏木は震える翔月の肩を、この上なく優しく抱いた。
「そんなに驚いたの?嬉しいな……」
ごきゅと翔月の喉が鳴る。
「僕はね……学力が違うから、君達は高校で別れるだろうと思っていたよ。彼は君のレベルに落として受験したんだね。明晰な頭脳なのに、勿体無い。今は生徒会長だっけ……?一緒に入学して来るなんて、思いもよらなかったよ。」
図星かもしれない。青児は進学校への推薦受験の誘いを蹴って、野球をするからと言い訳をして、翔月と同じ高校に入った。
「これ……いつ……?」
「あれ?覚えていないの?中学の時だよ。制服が懐かしいでしょう?ぼくが教育実習で赴任してた事なんて、記憶の片隅にもないんだね。翔月君はいつも……荏田青児君だっけ、彼しか見て居なかったから仕方がないか。」
「そんなこと……」
「君は眠りこんだ荏田青児に、神聖な教室で不埒なキスをした。荏田君は今も何も知らないままなのかな?高校生にもなったら、更科君もたまには抜いてるんでしょう……?夜のおかずは荏田君かな……?荏田君が、もしこのことを知ったら、なんて思うだろうね。親友だと思っていた君に、知らない間にキスされていたなんて。」
「……やっ、やめてください。青ちゃんには言わないで!」
悲鳴のような声が柏木の言葉を遮った。
もう、そんな言葉が判らないほど、翔月は子供ではなかった。実際、柏木の言葉通りだった。
夜ごと切なく手のひらに溢れる、決して知られてはならない幼馴染への白く粘り気のある劣情。
力なく座り込んだ翔月は、蒼白になっていた。背後から肩を抱く柏木には、血の気が引いた翔月が震えているのが判るだろう。
「……どうす……れば……それ、消して貰えますか……?お願いです。青ちゃ……青児君には……言わないでください……。知られたら、困る……んです。男同士なんて、きっと軽蔑される……」
「そうだね。大好きな人を永遠に失うかもしれないね。それでなくても君は、優秀な荏田のお荷物になっているように見えるんだから。」
とうとう、ひくっと嗚咽が零れた。そんなことは人に言われなくても、自分が一番わかっている。青児はいつだって、何をおいても翔月を優先してしまうのだ。傍から見ると、滑稽なほどだ。
「泣かせるつもりはなかったんだけどな……。そうだね、僕にもこの写真と同じように、キスをしてくれるかな。」
「キス……すれば……消してくれるんですか?」
濡れた頬の翔月が、必死に問いかけた。
「……君には、先生が嘘つきに見える?」
翔月は精一杯の勇気を振り絞って、柏木の正面に立った。そっと触れたたどたどしいキスは、腕を掴まれるとむさぼられるように激しく奪われ、口腔は長い間蹂躙された。
「……うっ!う~っ……」
壁に押し付けられ、酸欠で倒れそうになった時、やっと許された。
柏木はただ一度と願った翔月に、酷薄に微笑みかけた。
「消してあげるよ。いつかね。」
「い……今、キスすれば消してくれるって……!」
「一度だけで?ふふっ、虫のいいことをいう。僕は何年も待ったんだよ。」
翔月の顔は引きつっていた。目の前の教育者は、とんでもない男だった。
「放課後……時々、実験の準備を手伝ってくれるかな、更科君。先生、一人だと大変なこともあってね。」
「……写真を……消して下さい……」
「君次第だよ、更科翔月君。君がいい子なら、いつか消してあげる。この携帯は、今は使っていないんだ。自宅に置いておくから、学校で捜しても無駄だよ。どうしても探したかったら、後で住所を教えてあげるから、僕の家に来ることだね。」
蒼白の翔月は、ぼんやりと床に視線を落としたまま呆然としていた。恐怖に肌が粟立っていた。
翔月はその時から、柏木の手中に捕らわれた。
耳元でささやく柏木の言葉が、死刑宣告のようだと思う。
「生物室の横に、準備室があるでしょう?放課後、そこへいらっしゃい。」
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
(´・ω・`) 恐ろしい柏木の言葉に、翔月は震えています。可哀そうに……。←書いといて。
「そんなに驚いたの?嬉しいな……」
ごきゅと翔月の喉が鳴る。
「僕はね……学力が違うから、君達は高校で別れるだろうと思っていたよ。彼は君のレベルに落として受験したんだね。明晰な頭脳なのに、勿体無い。今は生徒会長だっけ……?一緒に入学して来るなんて、思いもよらなかったよ。」
図星かもしれない。青児は進学校への推薦受験の誘いを蹴って、野球をするからと言い訳をして、翔月と同じ高校に入った。
「これ……いつ……?」
「あれ?覚えていないの?中学の時だよ。制服が懐かしいでしょう?ぼくが教育実習で赴任してた事なんて、記憶の片隅にもないんだね。翔月君はいつも……荏田青児君だっけ、彼しか見て居なかったから仕方がないか。」
「そんなこと……」
「君は眠りこんだ荏田青児に、神聖な教室で不埒なキスをした。荏田君は今も何も知らないままなのかな?高校生にもなったら、更科君もたまには抜いてるんでしょう……?夜のおかずは荏田君かな……?荏田君が、もしこのことを知ったら、なんて思うだろうね。親友だと思っていた君に、知らない間にキスされていたなんて。」
「……やっ、やめてください。青ちゃんには言わないで!」
悲鳴のような声が柏木の言葉を遮った。
もう、そんな言葉が判らないほど、翔月は子供ではなかった。実際、柏木の言葉通りだった。
夜ごと切なく手のひらに溢れる、決して知られてはならない幼馴染への白く粘り気のある劣情。
力なく座り込んだ翔月は、蒼白になっていた。背後から肩を抱く柏木には、血の気が引いた翔月が震えているのが判るだろう。
「……どうす……れば……それ、消して貰えますか……?お願いです。青ちゃ……青児君には……言わないでください……。知られたら、困る……んです。男同士なんて、きっと軽蔑される……」
「そうだね。大好きな人を永遠に失うかもしれないね。それでなくても君は、優秀な荏田のお荷物になっているように見えるんだから。」
とうとう、ひくっと嗚咽が零れた。そんなことは人に言われなくても、自分が一番わかっている。青児はいつだって、何をおいても翔月を優先してしまうのだ。傍から見ると、滑稽なほどだ。
「泣かせるつもりはなかったんだけどな……。そうだね、僕にもこの写真と同じように、キスをしてくれるかな。」
「キス……すれば……消してくれるんですか?」
濡れた頬の翔月が、必死に問いかけた。
「……君には、先生が嘘つきに見える?」
翔月は精一杯の勇気を振り絞って、柏木の正面に立った。そっと触れたたどたどしいキスは、腕を掴まれるとむさぼられるように激しく奪われ、口腔は長い間蹂躙された。
「……うっ!う~っ……」
壁に押し付けられ、酸欠で倒れそうになった時、やっと許された。
柏木はただ一度と願った翔月に、酷薄に微笑みかけた。
「消してあげるよ。いつかね。」
「い……今、キスすれば消してくれるって……!」
「一度だけで?ふふっ、虫のいいことをいう。僕は何年も待ったんだよ。」
翔月の顔は引きつっていた。目の前の教育者は、とんでもない男だった。
「放課後……時々、実験の準備を手伝ってくれるかな、更科君。先生、一人だと大変なこともあってね。」
「……写真を……消して下さい……」
「君次第だよ、更科翔月君。君がいい子なら、いつか消してあげる。この携帯は、今は使っていないんだ。自宅に置いておくから、学校で捜しても無駄だよ。どうしても探したかったら、後で住所を教えてあげるから、僕の家に来ることだね。」
蒼白の翔月は、ぼんやりと床に視線を落としたまま呆然としていた。恐怖に肌が粟立っていた。
翔月はその時から、柏木の手中に捕らわれた。
耳元でささやく柏木の言葉が、死刑宣告のようだと思う。
「生物室の横に、準備室があるでしょう?放課後、そこへいらっしゃい。」
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
(´・ω・`) 恐ろしい柏木の言葉に、翔月は震えています。可哀そうに……。←書いといて。
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