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風に哭く花 10 

久し振りに足を踏み入れた青児の部屋は、いつか来た時とまるで変わっていなかった。
シンプルな机とベッドと本棚だけが置かれた殺風景な部屋だった。とんとベッドに腰掛けて、翔月は口にした。

「あのね……青ちゃん。ぼくも言おうと思ったことが有るんだ。」

「何?」

「高校生にもなって、いつまでも青ちゃんに頼ってばかりじゃいけないと思ってるんだ。」

「それって……?誰かに言われたのか?……例えば、柏木に?」

「違うよ、違う!ぼくが思っただけだよ。柏木先生は関係ない……ほんとうにそう思ったんだよ。今のままじゃいけないって。だって、このままずっと青ちゃんに護られているわけにはいかないだろ?」

「翔月は嘘つきだな。だったら何で泣いてるんだ?」

「あ……っ!」

言われて思わず頬を伝うものに気付く。何故、こんな風にあっさりと本心が零れてしまうのだろう。

「翔月。おれの事をちゃんと見ろよ。おれから離れたいっていうのは、さっき好きだって言ったからか?言っておくけど、おれはお前を手放すつもりはないからな。クラスの女子がおれたちの事、BLだなんだと騒ぐ前からずっと好きだったんだ。ちびの頃から、おれのことを一番わかっているのは翔月だろ?」

「うん……」

「翔月はおれのことをわかっているかもしれないけど、最近のおれは、翔月の事ちゃんとわかってない気がする。今までずっと一緒にいたからかもしれないけど、翔月が少し傍に居ないだけで、すごく不安になる。何か翔月ってすごく頼りなく見えるからさ、風が吹いたらどこかへ行ってしまいそうな気がしてさ。もしも他の奴に手折られたらって思うと、胸の中ですげぇ嫉妬してしまうんだ。もし、翔月が迷惑だって思っても、おれは誰にも翔月を渡したくない。部活と生徒会が無かったら、べったりストーカーしたいくらいだ。」

「青ちゃん……」

青児の気持ちが嬉しかった。ぽろぽろと、みっともないほどの滂沱の嬉し涙が溢れて来る。思いは届いていたのだと、翔月は腕を伸ばし青児の胸を濡らした。

周囲から見れば、青児は幼馴染だから仕方なく翔月の傍に居るように見えていただろうし、面と向かって、不釣り合いを口にする者もいた。高校受験の時ですら、担任は翔月に向かって青児を説得するように言って来た位だ。

「荏田が華桜陰の推薦を受けずに、君が受ける予定の公立へ一般入試で受験すると言って来た。まだ、最終決定までに時間があるから、君から説得してくれないか?いつまでも一緒じゃないといけない年でもないだろう?」

そんな話をした時も、青児は、翔月のば~かと言った。

「華桜陰高校なんて進学校、推薦で入ったって上位に入れるかどうかも分からないだろ?公立だったらよゆぽんじゃん。おれは大学のことも考えてるの。翔月が心配しなくても、大学は推薦で行ってやるから心配すんな。それより、教えてやるから翔月はちゃんと勉強しろよ?おれが公立行っても、翔月が滑って私立に行きましたじゃ話にならないぞ。」

「ん……がんばる。」

翔月の番号を見つけた時、自分の事のように飛び上がって大喜びした青児だった。




本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪

遅くなってすみませぬ~ 此花咲耶


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