風に哭く花 9
青児にとって、翔月はいつも守ってやりたいと思える愛おしい存在だった。
ただ、これまで青児は翔月に向けた想いを、一度も口にしたことはない。口にしなくても、翔月には全て判っていると思っていた。
それが青児の誤算だった。
「……なぁ。柏木先生って、昔会ったことあったっけ?」
「え?」
「陸上部の坂崎ってやついるじゃん、二組の。あいつが柏木の事、中学の時に教育実習に来てた先生じゃないかって言ってた。翔月は覚えてる?」
「知らない。つか、どうだっていいよ、そんなこと。」
「翔月には、柏木ってそんなことなのか?おれは正直言うとさ、翔月があいつに呼び出されるのが気に入らない。帰宅部なんて、翔月だけじゃないだろ?何だっていつも翔月が呼び出されるんだ。いつもベンチの所で練習見てる翔月がいないからさ、おれも何か調子狂ってるんだ。」
口をとがらせて、、一気に不満を口にする青児に、動揺を隠して翔月は皿を進めた。
「青ちゃん。これも食べて。ぼく、あんまりお腹すいてないから……」
「うん。なぁ……翔月、あいつと何かあった?」
「なんで?……授業の準備を手伝っているだけだよ……?」
「……いや、何となくだけど。考えてみたら、翔月の様子が元気ないっていうか、おかしくなったの、あいつに呼び出しされてからじゃないのかって気がしてきた。気のせいなら良いけど、あいつの翔月を見る眼つきって、時々やばいぞ。教え子を見る目じゃない気がする。翔月可愛いからさ、もしかすると狙われてるのかも……とか思う訳よ。」
「何を言ってるの。変な青ちゃん……ぼく、男だよ。」
「そりゃ、そうだけどさ。翔月は自分では分かってないだろうけど……すげぇ可愛いぞ。」
「変な青ちゃん。自分こそ、もてまくりのくせに。言っとくけど、ぼくこの前のバレンタインデー、お母さんから貰ったチョコ一個だけだったんだよ。誰も相手にしてないってことだよ?」
「ば~か。そんなことあるかよ。おれが翔月は女に興味がないらしいって、噂まいたの。」
話をしながら翔月の分まで綺麗にチーズハンバーグを平らげて、青児はいつになく真剣に翔月を見つめた。
「あのさ……おれ、分かってるだろうと思って、言ったことなかったけど、お前のこと好きだから。」
「えっ……?」
驚いた翔月が思わず目を見開いて、青児をじっと見つめる。
「そんな……そんなこと……ぼくだって、青ちゃんの事ずっと好きだよ……でも、それって幼馴染として……だよね。」
「違う。おれは翔月の事を考えると……出よう。ここにいると、誰に聞かれているか分からない。何か妙な視線も感じるしさ。おれんちで話そう。」
それは青ちゃんがかっこいいからだよと、少し誇らしげに翔月は思った。誰か知らない人の視線が青児に注がれることはこれが初めてではなかった。当たり前のようにずっと傍に居て、このまま大人になって行けたら……と翔月も思っていたが、それはもう叶わない。
二人だけで寄り添って歩いてきた道には、既に昏い影が迫っている。
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
毎日暑いですね~、夏バテに気を付けてくださいね。此花咲耶
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