風に哭く花 26
「……おれは翔月とはずっと変わらないで一緒に居られると思っていたけど、翔月はそう思っていなかったんだな。翔月にとってのおれは、一週間顔も見なくてもいいし、声も聞かなくてもいい軽い存在だったんだ。おれの思いは、翔月にとっちゃ重荷でしかないって良く、わかったよ。望み通り離れてやるよ。もう翔月が何をしようが構わないから、好きにすればいい。」
翔月の俯いた口の容が「そんな……」と開いたが、言葉は発せなかった。青児の言葉が翔月の心をえぐり、血が流れる気がした。
「そう……?い、まは……勉強しなきゃ、いけないから……だから……その方がいいかもしれない……ね。」
「そうか。それでいいんだな。塾でもなんでも自由にすればいいさ。翔月にはおれなんて必要ないんだから、これからは一人で何でも好きにすればいい。これまで付きまとって悪かったな。」
「青ちゃん……」
「この前渡したボール返してくれ。要らないだろ?あんな小汚いボール。今そこに持ってんだろ?翔月がおれの夢を一緒に担ぐ必要なんてないんだから、返せよ。」
「……やだ。貰ったんだから、ぼくのものだよ。」
膨らんだズボンに見当をつけて、青児はボールを強引に奪い取った。
「やだったら!」
青児は腕を掴んだ翔月の頬を、思わずぱんと打った。軽い力のつもりだったが、翔月ははね飛んだ。
弾みで転がったボールを拾い上げると、青児は自分のポケットにねじ込んだ。
「こんなものでもな、おれにはすごく大事なものだったんだ……。毎日、練習に付き合ってくれるお前にやりたくて、おれは必死だったんだ。」
「青ちゃん!お願いだから、返して!それは、ぼくにも大切な……」
翔月の言葉が震えた。
「もう、いいっ!」
青児はいつかのように、後ろ手に思い切り扉を閉めた。
「青ちゃーん……うぇっ……」
「バカ翔月。隠し事ばっかりしやがって……」
幼児のように自分を呼ぶ翔月の細い泣き声が、いつまでも耳の奥に張り付いて青児を責めた。
一度渡して喜ばせたものを取り上げるなんて、まるで意地悪な幼稚園児のようだ。
「おれは、ジャイアンか……っつーの。」
何故、もう少し落ち着いて、言えない話を聞き出してやらなかったのか。翔月はいつだって、なかなか打ち明けられない性格だったじゃないか。頼まれもしないのに勝手に心配しただけの自分が、翔月を責める筋合いなど無い。
「くそぁーーーーっ!!」
そんなことは、少し考えればわかったはずなのだが、大切な幼馴染が自分から離れようとしていると思い込んだ青児は、翔月を思いやれるほど大人ではなかった。
一年生で生徒会長に当選し、運動部に居ながら数学は全国模試に上位に食い込んでいる。
周囲が「万能」と評価する荏田青児は、恋愛にはまるで奥手のまだ17歳になったばかりの少年だった。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
大人に見えても頭が良くても、結局はまだまだ子供の青ちゃんでっす。(。'-')(。,_,)ウンウン
(´;ω;`)「 青ちゃんに、嫌われちゃった……ボール……」
いつか、ボールも返してもらえるといいね。
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