風に哭く花 27
翔月が自分から離れようとしているのが理解できず、無性に腹立たしかった。本当は泣かせるつもりなどなかった。抱きしめて優しく話を聞いてやるつもりだったのに……
生徒会室を後にして、握ったボールを思い切り自販機に叩きつけた。
ガン!!……自販機に当たって派手な音をさせたボールを、驚いたような顔をしたクラスメイトが通りかかって拾った。
「危ないなぁ。何やってるのよ、荏田。」
「あ、悪りぃ。誰もいないかと思った。」
「なぁに、これ……この間のウイニングボール?……」
拾ったボールを思わずまじまじと見た。
「ああ。」
「なんなの、これURL……?」
「……あ!それ!甲子園情報のサイトだよ!忘れないように、ついメモった。」
咄嗟にそう言ってもぎ取ったボールには、確かにどこかのアドレスが書かれていた。
******
トイレの個室に籠って、アドレスを打ち込んだ青児は呆然としていた。
「……なんだよ……これ……」
得体の知れない恐怖で、ざっと血が逆流するような気がする。
隠微なサイトの中には、青児の知らない世界が広がっていた。思わず、息を飲む。
青児には、そこで拘束されているのが翔月だとすぐに分かった。黒い大きな革製の椅子に張り付けられて、抗う翔月はすすり泣いて……無音だったが、何か懇願しているように見えた。
頭を振る翔月の開かれた足の間に、誰かの頭が見える。青児にはその誰かが、膝がしらを押さえつけて何をしているかわかってしまった。……自分が夜ごと、妄想の中で翔月にしていた行為がそこにある。
巧妙に翔月の顔はぼかされていたが、のけぞる白い喉は青児の知る翔月の物だった。
「翔月……なんで……誰にこんなこと、されてんだ。」
考えろ。翔月の様子がおかしくなったのは、いつからだった……?
青児は出来るだけ落ち着こうとしたが、淫猥な画面から顔を背けられなかった。縛められた少年の口元が映される。
青ちゃん……とその口は確かに言った。
……チャン……タスケテ……
******
クラスに駆け戻り、青児は翔月を探した。
「おい、翔月知らねぇ?」
「更科君?気分悪くなって、さっき帰ったよ~。」
「朝来た時から、具合悪そうで、顔色悪かったじゃん。荏田ぁ、ナイトなのに知らなかったの?」
確かにそうだった。いつもより顔色を白くして現れた翔月を労わるどころか、激高して詰って傷付けて泣かせた……。
「それで、翔月は?」
「今日は養護の先生お休みだから、すぐにも帰った方がいいだろうって、担任が自家用持ってる先生を探しに行った。軽い熱中症かもしれないなって言ってたよ。」
「プリウス持ってる先生いるじゃん、柏木かな?今日、来てるの見たよ。」
柏木の名を聞くなり、青児は脱兎のごとく走り出した。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
青児、がんばれ~ヽ(゚∀゚)ノ
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