風に哭く花 31
背後に視線を送る青児に気付き、「心配しなくてもいい。」と男は小さく頷いた。
「話をしよう。直樹には弟がいてね……とても、可愛らしい大人しい子だったよ。君のうさぎちゃんと同じように……なんでも内側に抱え込んで自分だけが我慢すればいいんだと、いじめに遭っても誰にも言えないような大人しい子だった。どう?うさぎちゃんもそう言うタイプじゃない?」
青児は肯いた。
確かに、年少の頃から翔月は油断すると誰かにこづき回されて、泣いていた。青児は心配で、誰かが乱暴しないように、いつも翔月の傍に張り付いていた。
小学校一年生の時に、六年生にパンツを脱がされて泣いた翔月に泣くなと叱ったのが最初で、青児はあれから何度も理不尽に、何も悪くない翔月を叱った気がする。
その時から、泣くなと言えば、翔月は目許を染めて涙をこぼすまいと耐えた。
唇をふるふるとわななかせながら、泣くのを我慢する小さな翔月がいじらしく、愛おしくてたまらなかった。
「直樹の弟は、中学の時に、眠る初恋の相手にキスをしたんだそうだよ。」
「え……っ?」
同じことがあったのかと、思わず声が出た。
「それをクラスメイトが見ていて、噂は学校中に広がった。直樹の弟は、光揮……みつきというのだけれど、親友は彼を冷淡に切り捨ててしまったんだ。恐らく彼も幼かったんだろうけどね、親友に裏切られた挙句、光揮はそれから壮絶ないじめに遭った。」
会ったことのない柏木の弟の姿が、どこか翔月にかぶるような気がする。青児も、あの時頬に落た稚拙なキスが他の誰かだったら、言葉を荒げてふざけるなと、罵っていたかもしれない。翔月だからこそ、うれしかったし嫌じゃなかった。
寛容ではなかった光揮の友人の気持ちも、何となく理解できる青児だった。
「あの……それで、先生の弟って人は……?」
「いじめというものはね、君も知っているだろうけど群集心理が加わると、とんでもないことになりやすい。光揮の好きな子は、それまでとても優しい子だったんだそうだけど、手のひらを返すように残酷に光揮を虐め始めたんだ。男を好きだなんて、気持ちが悪いとクラスメイトの前で大声で詰ってね……光揮は何も言い返せなかったそうだよ。」
「普通は……そう思うと思います。おれは昔から翔月が好きだから、キス位何とも思わなかったけど……翔月以外の奴にコクられたら、やっぱり考えられないだろうと思う。それがたぶん、誰かを好きになるのが悪いことではないと頭で分かっていても。」
「そう……。きっと、それが普通の考えなんだろうね。でもね、大勢に毎日虐められても、光揮はその子が好きだったんだよ。どれほど踏みにじられても、その子の顔が見たいと言って、学校を休まないで行くほど……ね。そしてね、光揮もまた風に哭く花だった。おいで……」
俊哉は扉に手を掛けた。
「いいかい?絶対に声を出してはいけないよ。約束できる?」
仕方なく頷いた青児だったが、一歩部屋に入った途端、思わず両手で口を覆った。
本日も、お読みいただきありがとうございました。(〃゚∇゚〃)
タイトルの「風に哭く花」というのは、実はそういう意味あいをもたせました。
敏感すぎる感度のいいM性のイメージです。
柏木弟はそれからどうなったのか……(´・ω・`)
翔月は一体……?
つづく~(*⌒▽⌒*)♪
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