嘘つきな唇 2
弱小野球部に籍を置くのは、部員にとって、大学進学のための内申点を良くするつもりもあったかもしれない。当初、里流も周囲にそう思われていただろうと思う。
何しろ野球部に入部当時、里流は今よりももっと線が細く、持病のせいで全員が揃ってこなす5キロのロード練習さえまともに完走できなかった。
余りの体力不足に、数少ない上級生も呆れた。正直、とんだお荷物が入部してきたものだと陰で噂をしていた。
だが野球部としては、万年部員不足でやっと試合が組めるほど入ってきた、貴重な新入生の一人を失う訳にはいかない。
上級生たちは、甘すぎると思いながら、少しずつできることをすればいいからと、弱小野球部ならではの特別待遇を与えることにした。里流も情けないと思いながらも、それに甘んじた。里流にはどうしても、野球を続けたい理由があった。
今日も、ロードには出ずに校庭外周を走っていろと言われたのだが、里流は無理をした。
「急がないと練習時間無くなるぞ。サッカー部と共有なんだから、ロードが終わったらすぐにキャッチボールを始め……あっ。片桐!」
校門へ入るなり倒れ込んだ後輩を見つけ、彩は駆け出した。
「あ~あ。またかよ~。うちの姫さんは、いつになったらまともにランニングできるようになるんだろうね~。」
「野球が好きだからって、中学の軟式野球とはそれなりにレベルも違うと思うんだけどなぁ。何で、入って来たかね。」
「同級生、誰か己を知れって言ってやれよ。中学の時も、万年補欠だったんだろう?マネージャーの方が、あいつの為じゃないのか?」
「里流は昔っから野球だけは諦めないんですよね。」
「なぜだ?」
同じ中学から来た沢口圭吾が、肩をすくめた。
「言ってもいいのかな。なんでも、亡くなった親父さんが社会人野球やってたらしいっす。だから、あいつには野球に特別思い入れがあるんすよ。小学校のスポーツ少年団の時も、コーチに向いてないから違うスポーツをやってみたらどうだって言われたんですけど、あいつはやめなかったんです。」
「そうなのか。まあ、どうせ強豪チームでもないんだし、メンバーが欠けると困るしな。それに、彩は面倒見がいい。一生懸命な奴に弱いんだ。キャプテンに押し付けておこうか。」
*****
グラウンドのベンチの上で、軽い発作を起こして蒼白の里流は、帽子をずらし顔を隠して横になっていた。
半分気を失ったようになって、里流は彩に背負われてここまで運ばれてきた。ぜいぜいと鳴る喘息特有の息の荒さに、彩は気が付いていた。
「す、み……ません、キャプテン……はぁ……はぁ……」
「いいから黙って、横になってろ。」
額に濡れタオルを乗せる彩から視線を外して、直もすみません……と、小さく呟いた。
里流は、きっと彩が呆れた顔をしているだろうと思った。
いくら、一回戦敗退の常連校とはいえ、地方予選に参加する野球部は、どこもそれなりの練習をする。
打撃練習、守備練習、朝練、筋トレと短い時間で効率よく組まれたプログラムを、これまで里流はまともにこなせていない。
我ながら情けなくて、涙が零れそうなのをぐっとこらえた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
スポコン物みたいですけど、ちゃんと甘くなる予定です。待っててね。(`・ω・´)←ほんとか~?
[壁]ω・)たぶん~
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