嘘つきな唇 5
面倒を見て来た後輩が、最後に自分の事を好きでしたと打ち明けた。
どこまでも生真面目な必死の瞳に、彩もはぐらかさずにきちんと答えた。
「里流。俺は自分がしたいことをやっただけだ。忘れるなよ、頑張ったのは里流自身なんだからな。里流は自分の力で、ここまで来たんだ。」
「はい。」
「里流が頑張ったから、他の奴も続いたんだ。練習試合も組めなかったチームが、この一年で向こうから声を掛けてくれるまでになったんだからな。俺の背中を里流が追ったように、今度は他の奴に追わせてやれ。来年一年生が入って来るまで、くじけずに頑張れよ、新キャプテン。」
「は……い……」
ごしごしと目許を拭う里流に、彩は近付いた。
「あのな。俺も里流の事、ずっと好きだったぞ。あんまりひたむきなんで、こっちが不純な気持ちで眺めるのは良くないと思って自制してた。正直言うと、時々やばかった。男同士なのにこんな気持ちになるなんて、不思議だと自分でも思う。」
「……おれも、初めてで……自分でもわけわかんないです……キャプテンに認めて貰いたくて、頑張ったんです。」
「里流はきっと亡くなった親父さんを俺の中に見てるんだと思う。俺は理屈っぽいしおっさんみたいだろ?他の奴らに時々言われてる。」
「キャプテンは……もし親父がいたら、きっとおれにこう言ってくれただろうな……って思う言葉を、いつもおれにくれました。ぎりぎりで諦めかけた時も、キャプテンだけは頑張ってるって認めてくれました。」
「そうだな。里流は最初から、体調も考えずに無理ばかりする意地っ張りだった。」
「……いつ辞めろと言われるかと思ってたんです。でも、キャプテンは違ってました……」
「彩でいい。今日でキャプテンと呼ぶのはお終いだ。」
「はい、キャプテ……ひ、彩さん……?」
「おう。」
汗をかいて臭っているかもしれないと、頭の片隅にほんの少しよぎった里流の考えはあっさりと消滅した。
妄想の中の彩と同じように、傍に居る彩は優しく里流を抱きしめ、頬を撫でた。ばくばくと心臓が高く跳ね上がる。
ドラマの中の大事な場面のように、彩はそっと近づき里流の唇に軽く触れるだけのキスをした。
がんがんと自分の耳にまで聞こえる激しい鼓動が、もしかすると彩の耳にも聞こえているだろうか。唇同士が触れただけのキス一つで膝が震え、思わず腕に縋った里流を彩はふざけて揶揄した。
「ははっ、里流。耳まで真っ赤だ。」
「……夕陽のせいです。それに、初めてじゃないし。」
「そうなのか?俺は里流はそう言う事には一切縁がないと思ってたぞ。」
「……夢の中ですけど……」
小さくつぶやいた里流の頭を抱えて、いつものようにごんと小突いて彩は笑った。
「じゃあ、これで何回目だ、里流。俺と何度キスをした?」
「え……っと。7……8……?」
「9回だ。」
真剣に指を折る里流の頬に、彩は武骨な両手で触れた。もう一度、素早く唇で触れて、彩は約束した。
「また練習に顔を出す。朝のランニングは、これからもずっと続けるからな。寝坊するなよ。」
「はい!」
去ってゆく彩の影が見えなくなるまで、里流はその場に立っていた。
「……彩さん。ああ……どうしよう。夢みたいだ……」
片桐里流。
遅い初恋が成就した。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
やっと自転車置き場の所まで戻ってきました。
(*/∇\*) きゃあ~、キャプテンとキスしてしまいました~
小鳥のキスで膝が震えるなんて、かわいい里流です。
明日からお話が動きます。(`・ω・´)
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