嘘つきな唇 12
帰校した里流は、担任を探した。とにかく事実だけを冷静に伝えなければと、必死だった。
「先生。交通事故です。救急車で織田朔良が病院に運ばれる所を見ました。織田先輩が一緒に救急車に乗り込んだのを確認しました。どこの病院に行ったかはわかりません……」
「ああ、片桐。近所の人から学校に電話があった。詳しいことはまだ何もわからないんだ。」
「そうですか。」
里流は落胆した。少しでも早く詳細を知りたいと駆け戻ったのに……
「人身事故だからトラック運転手も事情聴取されているらしい。そちらは無傷だということだ。学校側としては、警察からもう一度連絡が来るのを待っている状態なんだ。取りあえず、二人の織田の保護者に連絡を取っているところだ。」
そのうち教員室の電話が鳴り、教頭が飛びつくようにして受話器を取った。
一番近い鴨川総合病院に運ばれたと、連絡があった。
織田朔良の容体は分からないが、とにかく命に別状はないんですねと、教頭は何度も口にしていた。
不幸な交通事故だったが、安堵のため息が漏れた。
病院に行っても何もできる事はない。今は彩から何か言って来るまで、おとなしくしていようと里流は思った。
蒼白の彩に掛ける言葉を持たなかった自分は、せめて彩に心配を掛けないようにキャプテンとして出来る事をしていよう。ワードを開き、勧誘文章を考えながらそれでも彩の顔を思い出すと落ち着かない里流だった。
*****
彩はぐったりと青ざめた朔良の手を握っていた。
身じろぎもしないで薬の力を借りて眠る朔良の体には、何本もの点滴のチューブがつながれている。看護師が痛み止めと抗生物質ですと説明をしてくれた。
落ちてゆく液体の滴を思わず目で追ってしまう。
「ごめん……朔良……」
力なくつぶやく彩が見つめる足は、腫れが酷いために処置できないで、いくつもの氷嚢に覆われている。
取り返しのつかないことをしてしまった。
熱のある朔良を後部座席に乗せて、ゆっくりと漕いでいた彩は、降り始めた雨に当ててはいけないと先を急いでしまった。
路肩の砂で滑って横転したとき、道路側に投げ出された朔良は、急ブレーキをかけたトラックが突っ込んでくるのを避けられなかった。二人の乗っていた自転車が、トラックの下敷きになりトラックの大きなタイヤをバーストさせた。
しゃくるようにしてスピードを落としたトラックの車輪が、「お兄ちゃん!」と叫んだ朔良の足を轢いた。
「朔良っ!!」
その時、彩の目には恐ろしい場面がコマ送りの映像となって見えた。朔良に伸ばした彩の手は、届かなかった。
ぐしゃ……と骨を砕く音が聞こえたような気がする。朔良の悲鳴が細く響いた。
「朔良――――っ!!」
名を呼び続ける事しかできなかった。
赤色灯が近づいて来ても、時間から隔離された空間に投げ出された気がする。
救急隊員や警察官の声が鈍く響いて、聞き取れなかった。
*****
右足首、踵、甲の粉砕骨折。
文字通り、整復ではどうしようもないほど粉々になった朔良の足。
二度とハイジャンプはできないだろうと、手術後、医師は家族に告げた。
「できる限り、後遺症が残らないように最善を尽くしますが……。これからは、大変なリハビリになると思います。どうかご家族で支えてあげてください。陸上部に入っていたそうですが、そちらの方はおそらくもう……」
「朔良……っ!」
運び込まれた朔良の姿を見て、悲鳴を上げたのは、朔良によく似た母親だった。
本日もお読み頂きありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
大変なことになってます……。(´・ω・`)
「先生。交通事故です。救急車で織田朔良が病院に運ばれる所を見ました。織田先輩が一緒に救急車に乗り込んだのを確認しました。どこの病院に行ったかはわかりません……」
「ああ、片桐。近所の人から学校に電話があった。詳しいことはまだ何もわからないんだ。」
「そうですか。」
里流は落胆した。少しでも早く詳細を知りたいと駆け戻ったのに……
「人身事故だからトラック運転手も事情聴取されているらしい。そちらは無傷だということだ。学校側としては、警察からもう一度連絡が来るのを待っている状態なんだ。取りあえず、二人の織田の保護者に連絡を取っているところだ。」
そのうち教員室の電話が鳴り、教頭が飛びつくようにして受話器を取った。
一番近い鴨川総合病院に運ばれたと、連絡があった。
織田朔良の容体は分からないが、とにかく命に別状はないんですねと、教頭は何度も口にしていた。
不幸な交通事故だったが、安堵のため息が漏れた。
病院に行っても何もできる事はない。今は彩から何か言って来るまで、おとなしくしていようと里流は思った。
蒼白の彩に掛ける言葉を持たなかった自分は、せめて彩に心配を掛けないようにキャプテンとして出来る事をしていよう。ワードを開き、勧誘文章を考えながらそれでも彩の顔を思い出すと落ち着かない里流だった。
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彩はぐったりと青ざめた朔良の手を握っていた。
身じろぎもしないで薬の力を借りて眠る朔良の体には、何本もの点滴のチューブがつながれている。看護師が痛み止めと抗生物質ですと説明をしてくれた。
落ちてゆく液体の滴を思わず目で追ってしまう。
「ごめん……朔良……」
力なくつぶやく彩が見つめる足は、腫れが酷いために処置できないで、いくつもの氷嚢に覆われている。
取り返しのつかないことをしてしまった。
熱のある朔良を後部座席に乗せて、ゆっくりと漕いでいた彩は、降り始めた雨に当ててはいけないと先を急いでしまった。
路肩の砂で滑って横転したとき、道路側に投げ出された朔良は、急ブレーキをかけたトラックが突っ込んでくるのを避けられなかった。二人の乗っていた自転車が、トラックの下敷きになりトラックの大きなタイヤをバーストさせた。
しゃくるようにしてスピードを落としたトラックの車輪が、「お兄ちゃん!」と叫んだ朔良の足を轢いた。
「朔良っ!!」
その時、彩の目には恐ろしい場面がコマ送りの映像となって見えた。朔良に伸ばした彩の手は、届かなかった。
ぐしゃ……と骨を砕く音が聞こえたような気がする。朔良の悲鳴が細く響いた。
「朔良――――っ!!」
名を呼び続ける事しかできなかった。
赤色灯が近づいて来ても、時間から隔離された空間に投げ出された気がする。
救急隊員や警察官の声が鈍く響いて、聞き取れなかった。
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右足首、踵、甲の粉砕骨折。
文字通り、整復ではどうしようもないほど粉々になった朔良の足。
二度とハイジャンプはできないだろうと、手術後、医師は家族に告げた。
「できる限り、後遺症が残らないように最善を尽くしますが……。これからは、大変なリハビリになると思います。どうかご家族で支えてあげてください。陸上部に入っていたそうですが、そちらの方はおそらくもう……」
「朔良……っ!」
運び込まれた朔良の姿を見て、悲鳴を上げたのは、朔良によく似た母親だった。
本日もお読み頂きありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
大変なことになってます……。(´・ω・`)
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