嘘つきな唇 9
里流はいつも通り玄関を開けて、待っている彩に声を掛けた。
「彩さん!おはようございます!」
「おはよう、里流。」
一つ微笑みを寄越すと行くぞと手を上げて、彩は先に走り出した。
後を追う里流には昨日と同じ景色のはずだが、色鮮やかに見えた。頬を弄る空気さえ澄んでいる気がする。
振り返って思えば、最後の朝。
何も知らない里流の足取りは軽かった。
*****
「里流!」
友人たちとの昼食が終わったころ、彩が誘いにやって来る。引退した彩は野球部にとっての情報を多方面から仕入れてくれた。
「あのな。生徒会の奴に聞いたんだけど、周辺の中学校に、監督が部紹介の案内チラシを持っていくらしいんだ。」
「まだ学校説明の時期じゃありませんよね?監督、どうしたのかな。」
「一回戦突破しただろ?少しは欲が出たんじゃないか?スポーツ推薦はないけど、一応野球部にいる奴に声かけて勧誘するんじゃないかって言ってた。せめて部員を揃える手助けをしてやろうって言う事なんじゃないか?今のままじゃ試合にもならないからな。」
「じゃあ、おれ文面考えて、監督に持って行ってもらいます。中学の野球部の監督さんや部員に宛てて、活動の紹介文章とか入れた方が良いですね。後、沢口には中学に弟がいるから、同級生に声を掛けてもらいます。あいつの弟も来年入って来る予定なんです。」
「そうか。一人でも多い方が良いから頼んでおけよ。午後は自習だから、情報室のパソコンで原案作ってやるよ。写真だけいくつか、里流が選べば良い。去年もおれが作ったから大体の要領は分かっている。」
「そっか~、部員の争奪戦は入学前から始まっているんですね。そう言えば、彩さん進路はどうするんですか?」
どさくさまぎれに、彩の、これからの事に何気なく話題を振った。何でもいいから、彩のことを知りたいと思った。三月には一足先に、彩は卒業してゆく。
「一応、教育学部のある公立大学が第一志望だ。家から通える県立が良いと思ってるんだが、偏差値が高いから受かるかどうかは微妙だな。」
「教師になるんですか?」
「希望は、中学の社会学科の教師だ。で、野球部の顧問になって、里流みたいにやる気はあるけど方法の分からない子の手助けをしてやりたいって思ってる。」
思わず彩らしいと思った。俯いているばかりの自分に、光のある方向を指し示したように、きっと彩は生徒に慕われる素晴らしい教師になるだろう。
「教師って、彩さんに向いて居そうな気がします。おれも色々教わりました。」
ふっと柔らかい笑みを浮かべて、彩は里流に触れた。
「諦めるのはいつでもできるけど、達成したときの笑顔は格別だからな。里流が真っ直ぐに投げたボールが沢口のミットに吸いこまれた時は、感動ものだったよなぁ。」
「みんな普通に集まっちゃって、審判に怒られましたね。試合が中断してしまって、相手チームがぽか~んとしてた……」
「ああ。あの時の里流の嬉しそうな笑顔を覚えている。きっと、俺は何年経っても思い出すと思う。里流……」
里流の肩を抱き寄せた彩に唇を啄ばまれながら目を閉じた。このキスは何度目だろうか。
「15回目だ。」
「えっ……?」
驚いて思わず目を開けると、すぐ傍に大好きな彩の顔が有った。
「分かりやすいなぁ、里流。今、このキスは何回目だっけって思ったろ?」
忍び込んできた彩の舌に、おずおずと応える里流の下肢が熱を持っていた。
里流は思わず腰を引いた。彩に気取られないように……
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
里流は彩のことが大好きみたいです。何度も繰り返されるキスに,思いが深くなってゆきます……
「彩さん!おはようございます!」
「おはよう、里流。」
一つ微笑みを寄越すと行くぞと手を上げて、彩は先に走り出した。
後を追う里流には昨日と同じ景色のはずだが、色鮮やかに見えた。頬を弄る空気さえ澄んでいる気がする。
振り返って思えば、最後の朝。
何も知らない里流の足取りは軽かった。
*****
「里流!」
友人たちとの昼食が終わったころ、彩が誘いにやって来る。引退した彩は野球部にとっての情報を多方面から仕入れてくれた。
「あのな。生徒会の奴に聞いたんだけど、周辺の中学校に、監督が部紹介の案内チラシを持っていくらしいんだ。」
「まだ学校説明の時期じゃありませんよね?監督、どうしたのかな。」
「一回戦突破しただろ?少しは欲が出たんじゃないか?スポーツ推薦はないけど、一応野球部にいる奴に声かけて勧誘するんじゃないかって言ってた。せめて部員を揃える手助けをしてやろうって言う事なんじゃないか?今のままじゃ試合にもならないからな。」
「じゃあ、おれ文面考えて、監督に持って行ってもらいます。中学の野球部の監督さんや部員に宛てて、活動の紹介文章とか入れた方が良いですね。後、沢口には中学に弟がいるから、同級生に声を掛けてもらいます。あいつの弟も来年入って来る予定なんです。」
「そうか。一人でも多い方が良いから頼んでおけよ。午後は自習だから、情報室のパソコンで原案作ってやるよ。写真だけいくつか、里流が選べば良い。去年もおれが作ったから大体の要領は分かっている。」
「そっか~、部員の争奪戦は入学前から始まっているんですね。そう言えば、彩さん進路はどうするんですか?」
どさくさまぎれに、彩の、これからの事に何気なく話題を振った。何でもいいから、彩のことを知りたいと思った。三月には一足先に、彩は卒業してゆく。
「一応、教育学部のある公立大学が第一志望だ。家から通える県立が良いと思ってるんだが、偏差値が高いから受かるかどうかは微妙だな。」
「教師になるんですか?」
「希望は、中学の社会学科の教師だ。で、野球部の顧問になって、里流みたいにやる気はあるけど方法の分からない子の手助けをしてやりたいって思ってる。」
思わず彩らしいと思った。俯いているばかりの自分に、光のある方向を指し示したように、きっと彩は生徒に慕われる素晴らしい教師になるだろう。
「教師って、彩さんに向いて居そうな気がします。おれも色々教わりました。」
ふっと柔らかい笑みを浮かべて、彩は里流に触れた。
「諦めるのはいつでもできるけど、達成したときの笑顔は格別だからな。里流が真っ直ぐに投げたボールが沢口のミットに吸いこまれた時は、感動ものだったよなぁ。」
「みんな普通に集まっちゃって、審判に怒られましたね。試合が中断してしまって、相手チームがぽか~んとしてた……」
「ああ。あの時の里流の嬉しそうな笑顔を覚えている。きっと、俺は何年経っても思い出すと思う。里流……」
里流の肩を抱き寄せた彩に唇を啄ばまれながら目を閉じた。このキスは何度目だろうか。
「15回目だ。」
「えっ……?」
驚いて思わず目を開けると、すぐ傍に大好きな彩の顔が有った。
「分かりやすいなぁ、里流。今、このキスは何回目だっけって思ったろ?」
忍び込んできた彩の舌に、おずおずと応える里流の下肢が熱を持っていた。
里流は思わず腰を引いた。彩に気取られないように……
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
里流は彩のことが大好きみたいです。何度も繰り返されるキスに,思いが深くなってゆきます……
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