嘘つきな唇 10
何度めかのキスの後、彩はぽんと頭を撫ぜた。
「駄目だ。これ以上里流の顔を見て居たら、キスだけじゃ物足りなくなる。やばい。」
いくらなんでも部室で押し倒したらまずいと、彩はごちた。
原案を作って来ると口の中で呟いて、部室を出て行こうとした。思いついて里流は彩の背中に声を掛けた。
「あ!彩さん~。」
「なんだ?」
「そう言えば、これまでの新歓の時っておれ参加できてないんですけど、野球部は何をやったんですか?」
「新歓(新入生歓迎会)の時か?」
里流は肯いた。
入学当時はまだ熱を出す日があって、里流は休みが多かった。その為、色々な行事に参加できていない。各部の新キャプテンは、部員獲得の為に趣向を凝らし、体育館の壇上で部紹介をしたはずだ。
「そうだなぁ。里流は沢口と漫才でもやればいいか。」
「え……?そんなのおれ、無理です……。」
彩は悪戯をする子供のように、里流の顔を覗き込みくすりと笑った。
「俺はやったぞ?代々、野球部はキャプテンと副キャプテンの漫才と決まってるんだ。先輩から譲り受けた禿ヅラがあるからやるよ。部紹介の出来次第で、部員の入り方が違うからな。里流も頑張って笑い取ってくれよ?」
「……」
「里流……?」
顔色も変えずに言い切った彩を見つめて、里流は俯いた。大人しい自分には、とても人前で漫才などできそうにない。彩に思いをぶつけたのも、ありえないほどの勇気を振り絞ったのだ。
ぽた……と、部室の机に涙が落ちた。
彩は慌てた。
「ちょっ……冗談だって。里流!泣くな。ごめん、悪かった。ちょっと困らせてみたかっただけなんだ。」
あやすように里流の頬に彩が触れて頤を持ち上げる。再び震える唇を啄ばまれながら、言い訳をする彩を見つめていた。
部活は終わっても、こうして接点があるのが嬉しかった。昼休憩の後と、放課後部活に入る前の少しの時間、里流は彩と野球の話をしながら二人で過ごしていた。
卒業するまでこの至福の時が続くと思っていた。
彩の何気ないしぐさ。里流の知らなかったいくつかの癖、視線が絡むと覗き込んで優しく微笑んでくれた。
どれ程のキスを交わしただろうか。
*****
突然、彩を呼ぶ声に我に返った。
「彩!いるか?」
「いるぞ。どうした?」
「先生が捜している。朔良姫が熱を出したらしい。」
「朔良が?」
朔良の担任は、当然彩のことを知っていた。
「午後から自習だろ?連れて帰ってくれないかって言ってた。」
彩が立ち上がると、僅かに冷えた気がする。
「里流。……だそうだ。作業はまた明日だな。どうしたんだろう、最近、朔良は熱何て出していなかったのに……」
どうやら風邪を引いていたのを無理したらしく、待っていた担任が保健室の前で手を上げた。
「今計ったら八度あるんだ。これ以上熱が上がるといけないから、病院へ行こうと言ったんだが、家に帰れば薬があると織田が言うんでな。」
「俺、連れて帰ります。朔良は自転車だろ?」
ぼうっと熱で潤んだ瞳で朔良は肯いた。
*****
荷台に乗った朔良は、彩の腰に手を回しぎゅっとしがみついた。
帰ってゆく彩を見つめる里流に気が付いたのか、自転車をこぐ彩が手を上げた。背中にかきついた朔良がふっと自分に笑いかけたのを里流は不思議に思ったが、その時は何も思わなかった。
それからしばらくして、小雨の中ロード練習に出た里流たち野球部員達は顔色をなくすことになる。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
寄り添う心。
他愛のない会話を交わす、未成熟な恋人同士 ……
「駄目だ。これ以上里流の顔を見て居たら、キスだけじゃ物足りなくなる。やばい。」
いくらなんでも部室で押し倒したらまずいと、彩はごちた。
原案を作って来ると口の中で呟いて、部室を出て行こうとした。思いついて里流は彩の背中に声を掛けた。
「あ!彩さん~。」
「なんだ?」
「そう言えば、これまでの新歓の時っておれ参加できてないんですけど、野球部は何をやったんですか?」
「新歓(新入生歓迎会)の時か?」
里流は肯いた。
入学当時はまだ熱を出す日があって、里流は休みが多かった。その為、色々な行事に参加できていない。各部の新キャプテンは、部員獲得の為に趣向を凝らし、体育館の壇上で部紹介をしたはずだ。
「そうだなぁ。里流は沢口と漫才でもやればいいか。」
「え……?そんなのおれ、無理です……。」
彩は悪戯をする子供のように、里流の顔を覗き込みくすりと笑った。
「俺はやったぞ?代々、野球部はキャプテンと副キャプテンの漫才と決まってるんだ。先輩から譲り受けた禿ヅラがあるからやるよ。部紹介の出来次第で、部員の入り方が違うからな。里流も頑張って笑い取ってくれよ?」
「……」
「里流……?」
顔色も変えずに言い切った彩を見つめて、里流は俯いた。大人しい自分には、とても人前で漫才などできそうにない。彩に思いをぶつけたのも、ありえないほどの勇気を振り絞ったのだ。
ぽた……と、部室の机に涙が落ちた。
彩は慌てた。
「ちょっ……冗談だって。里流!泣くな。ごめん、悪かった。ちょっと困らせてみたかっただけなんだ。」
あやすように里流の頬に彩が触れて頤を持ち上げる。再び震える唇を啄ばまれながら、言い訳をする彩を見つめていた。
部活は終わっても、こうして接点があるのが嬉しかった。昼休憩の後と、放課後部活に入る前の少しの時間、里流は彩と野球の話をしながら二人で過ごしていた。
卒業するまでこの至福の時が続くと思っていた。
彩の何気ないしぐさ。里流の知らなかったいくつかの癖、視線が絡むと覗き込んで優しく微笑んでくれた。
どれ程のキスを交わしただろうか。
*****
突然、彩を呼ぶ声に我に返った。
「彩!いるか?」
「いるぞ。どうした?」
「先生が捜している。朔良姫が熱を出したらしい。」
「朔良が?」
朔良の担任は、当然彩のことを知っていた。
「午後から自習だろ?連れて帰ってくれないかって言ってた。」
彩が立ち上がると、僅かに冷えた気がする。
「里流。……だそうだ。作業はまた明日だな。どうしたんだろう、最近、朔良は熱何て出していなかったのに……」
どうやら風邪を引いていたのを無理したらしく、待っていた担任が保健室の前で手を上げた。
「今計ったら八度あるんだ。これ以上熱が上がるといけないから、病院へ行こうと言ったんだが、家に帰れば薬があると織田が言うんでな。」
「俺、連れて帰ります。朔良は自転車だろ?」
ぼうっと熱で潤んだ瞳で朔良は肯いた。
*****
荷台に乗った朔良は、彩の腰に手を回しぎゅっとしがみついた。
帰ってゆく彩を見つめる里流に気が付いたのか、自転車をこぐ彩が手を上げた。背中にかきついた朔良がふっと自分に笑いかけたのを里流は不思議に思ったが、その時は何も思わなかった。
それからしばらくして、小雨の中ロード練習に出た里流たち野球部員達は顔色をなくすことになる。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
寄り添う心。
他愛のない会話を交わす、未成熟な恋人同士 ……
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