嘘つきな唇 4
里流は彩の作ったメニューどうり、毎朝の走り込みから始めた。
自宅から学校まで、4キロ余りの道のりを最初は半分歩くようにして走っていたが、やがて次第に走れる距離とタイムが伸びた。
数か月経ったころ、いつか自然に、俺も一緒に走ると言い出した彩がジャージ姿で玄関に迎えに来た。
「先を走るから、背中を追って来いよ。目標が有った方が走りやすいだろ?」
彩は里流に合わせ、ゆっくりと先を走り始めた。
*****
遠かった背中にやがて近づき、冬季休暇に入る頃には肩を並べて走れるようになった。それと共に、いつか風邪もひかなくなり喘息の発作に悩むこともなくなっていた。
「里流、いい感じじゃないか。息が上がらなくなってきたな。そろそろロードに参加してみないか?驚かせてやろうぜ。」
「はい。」
久し振りに参加して最初から飛ばしたロードは、周囲の心配を他所に里流はかなり早く完走し、周囲を驚かせた。
「どうしたんだよ。里流。走れるようになってるじゃないか。お前、喘息はどうなったんだ?」
沢口は自分達を抜いてゴールした里流に驚いて、目を丸くしている。
「朝練し始めてから、余り喘息でなくなったんだ。キャプテンと毎朝、一緒に走ってるんだ、おれ。」
「そうか。良かったなぁ。親父さんも喜ぶな。」
「親父さん?」
沢口との会話を、思わず彩は聞きとがめた。
視線で余計なことを……と里流は詰ったが、彩は返事を待っていた。
「あの……大したことじゃないんです。死んだ親父が社会人野球とかやってて、ちびの頃に元気になったら野球やろうなって約束してたんです。なんか、おれとキャッチボールするのが親父の夢だったみたいです。男親って、どこも同じこと言うみたいです。」
「ああ……それで、里流は野球辞めなかったのか。」
「……しつこいんです。おれ。親父はもういないのに、約束だけ覚えてて。」
「親父さんと、キャッチボールした記憶とかあるのか?」
「……いえ。でもベンチにも入れないのに、いつか親父と野球をするんだって気持ちが消えなくて……。キャプテンともっと早くに知り合ってたら、良かったです。」
彩は素直に後輩を可愛いと思った。
今はない父親と交わした約束をずっと大事に思っている里流を、健気だと思う。
里流に向かって、彩はぽんとグローブを投げた。
「親父さんなら、きっと里流の傍で見てるさ。行くぞ。」
いつか片桐ではなく、里流と呼ばれるようになっていた。
*****
1年間、ひたすら走って里流は体力をつけた。
雨の日も、1日も休まず走り続ける里流は、少しずつ自信も付けてゆく。
練習試合のある日。
里流は三塁守備についていた。守備も特訓の甲斐あって、何とか形になっていた。
処理が難しいボールは、全て身体で受け止めて前に落とす。身体中あざだらけになっても、里流は弱音を吐かなかった。
相手チームの打った弾丸ライナーが、三塁の里流を強襲した。
練習どうり身体で受け止めて、すぐさま拾って投げる。サードポジションから必死に一塁に向かって投げたボールが、初めてワンバウンドではなく、一直線に沢口のファーストミットに吸いこまれた時、マウンドの彩は思わず大声を上げた。
「届いたぞ、里流!」
里流の努力を知っているチームメイトは、アウトを取れたことよりもボールが届いたと、喜んで大騒ぎした。
まだ、アウトカウントが一つとれたばかりで、残り2つのアウトを取る前に、外野に居た選手まで口々に「やったな、里流。」と喝采しながら里流を中心に円陣が出来た。
呆れて注意をした審判に、「せめてタイムをかけるべきでした、すみません。」と彩は悪びれずに口にした。
「……いや、そこじゃないよ。というか、そこまで大喜びするようなことなのかね?」
「はい!初めてファーストに届いたんです。あいつ、これまですごく頑張ったんです!」
満面の笑顔に、思わず審判もつられた。
「それは良かった。だが、喜ぶのは後にして、試合を続行するかね?このままだと、没収試合になる。」
はっと我に返った彩が「試合再開!」と叫び、それは君が言う事じゃないと審判に再び注意を受けた。
*****
里流にとって部活の時間は、人生の中で最も煌めいた大切なものだった。
彩と仲間と過ごす毎日が、どれほどかけがえのない日々だったか、後に里流は懐かしく振り返った。
それは彩にとっても同じようなものだったろうか。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
「やったな、里流!」(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)「やった~キャプテン。おれ、がんばりました~」
チームメイトにも愛されている里流です。
でも、幸せって長く続かないのですよね~ (´-ω-`)ふむ~
(°∇°;)え?それって、どういう……
(〃^∇^)o彡ちっさいことは、気にすんな!
自宅から学校まで、4キロ余りの道のりを最初は半分歩くようにして走っていたが、やがて次第に走れる距離とタイムが伸びた。
数か月経ったころ、いつか自然に、俺も一緒に走ると言い出した彩がジャージ姿で玄関に迎えに来た。
「先を走るから、背中を追って来いよ。目標が有った方が走りやすいだろ?」
彩は里流に合わせ、ゆっくりと先を走り始めた。
*****
遠かった背中にやがて近づき、冬季休暇に入る頃には肩を並べて走れるようになった。それと共に、いつか風邪もひかなくなり喘息の発作に悩むこともなくなっていた。
「里流、いい感じじゃないか。息が上がらなくなってきたな。そろそろロードに参加してみないか?驚かせてやろうぜ。」
「はい。」
久し振りに参加して最初から飛ばしたロードは、周囲の心配を他所に里流はかなり早く完走し、周囲を驚かせた。
「どうしたんだよ。里流。走れるようになってるじゃないか。お前、喘息はどうなったんだ?」
沢口は自分達を抜いてゴールした里流に驚いて、目を丸くしている。
「朝練し始めてから、余り喘息でなくなったんだ。キャプテンと毎朝、一緒に走ってるんだ、おれ。」
「そうか。良かったなぁ。親父さんも喜ぶな。」
「親父さん?」
沢口との会話を、思わず彩は聞きとがめた。
視線で余計なことを……と里流は詰ったが、彩は返事を待っていた。
「あの……大したことじゃないんです。死んだ親父が社会人野球とかやってて、ちびの頃に元気になったら野球やろうなって約束してたんです。なんか、おれとキャッチボールするのが親父の夢だったみたいです。男親って、どこも同じこと言うみたいです。」
「ああ……それで、里流は野球辞めなかったのか。」
「……しつこいんです。おれ。親父はもういないのに、約束だけ覚えてて。」
「親父さんと、キャッチボールした記憶とかあるのか?」
「……いえ。でもベンチにも入れないのに、いつか親父と野球をするんだって気持ちが消えなくて……。キャプテンともっと早くに知り合ってたら、良かったです。」
彩は素直に後輩を可愛いと思った。
今はない父親と交わした約束をずっと大事に思っている里流を、健気だと思う。
里流に向かって、彩はぽんとグローブを投げた。
「親父さんなら、きっと里流の傍で見てるさ。行くぞ。」
いつか片桐ではなく、里流と呼ばれるようになっていた。
*****
1年間、ひたすら走って里流は体力をつけた。
雨の日も、1日も休まず走り続ける里流は、少しずつ自信も付けてゆく。
練習試合のある日。
里流は三塁守備についていた。守備も特訓の甲斐あって、何とか形になっていた。
処理が難しいボールは、全て身体で受け止めて前に落とす。身体中あざだらけになっても、里流は弱音を吐かなかった。
相手チームの打った弾丸ライナーが、三塁の里流を強襲した。
練習どうり身体で受け止めて、すぐさま拾って投げる。サードポジションから必死に一塁に向かって投げたボールが、初めてワンバウンドではなく、一直線に沢口のファーストミットに吸いこまれた時、マウンドの彩は思わず大声を上げた。
「届いたぞ、里流!」
里流の努力を知っているチームメイトは、アウトを取れたことよりもボールが届いたと、喜んで大騒ぎした。
まだ、アウトカウントが一つとれたばかりで、残り2つのアウトを取る前に、外野に居た選手まで口々に「やったな、里流。」と喝采しながら里流を中心に円陣が出来た。
呆れて注意をした審判に、「せめてタイムをかけるべきでした、すみません。」と彩は悪びれずに口にした。
「……いや、そこじゃないよ。というか、そこまで大喜びするようなことなのかね?」
「はい!初めてファーストに届いたんです。あいつ、これまですごく頑張ったんです!」
満面の笑顔に、思わず審判もつられた。
「それは良かった。だが、喜ぶのは後にして、試合を続行するかね?このままだと、没収試合になる。」
はっと我に返った彩が「試合再開!」と叫び、それは君が言う事じゃないと審判に再び注意を受けた。
*****
里流にとって部活の時間は、人生の中で最も煌めいた大切なものだった。
彩と仲間と過ごす毎日が、どれほどかけがえのない日々だったか、後に里流は懐かしく振り返った。
それは彩にとっても同じようなものだったろうか。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
「やったな、里流!」(ノ´▽`)ノヽ(´▽`ヽ)「やった~キャプテン。おれ、がんばりました~」
チームメイトにも愛されている里流です。
でも、幸せって長く続かないのですよね~ (´-ω-`)ふむ~
(°∇°;)え?それって、どういう……
(〃^∇^)o彡ちっさいことは、気にすんな!
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