朔良咲く 19
「ん?あ、ママ、お帰りなさい。……確かこのクローゼットの中にあったと思ったんだけど……」
「探し物なの?なに?」
「ママが作ってくれたスーツ。ほら、ママの趣味満載の薄い色の。」
朔良が捜している物、それは成人式に母がオーダーメイドで作らせたスーツだった。上質な灰紫色のスーツは、デザインがまるで新郎みたいだから嫌だと、朔良は袖を通した事は無い。
「あるわよ。ほら、確かこれね。……箱に入れてあるの。だって、朔良ったら、見向きもしてくれなかったじゃない?がっかりしたわよ、ママがせっかく王子さまみたいなのをデザインしたのに。」
「だから着たくなかったんだよ。目立つ格好したら、またじろじろ見られるもの。まだ、足も良くなってなかったし。」
「あら。あなた素敵だもの。誰だって見るわよ。」
言い切る母の言葉に、思わず苦笑する。
薄いラベンダー色のシャツには細かなタックが寄せられていて、襟元から前立てには三重にフリルがついている。袖口からも細かなフリルが見える。
母の少女趣味をそのまま形にしたような、まるでロココ時代の宮廷楽師の衣装のようなスーツを前に、朔良は小さな声で感想を口にする。
「すっげぇ、ひらひら……やっぱり、着るのやめようかな。……でも、見えなくもないかな。」
「なんなの?」
「う……ん。あのね。」
朔良は病院で出会った少女の話をした。
魔法の王子さまを待っている、詳しいことは分からないけれど、きっと重い病気の少女。
朔良に王子さまなのかとあの子は尋ねた。
「病院の中に学校があるんだよ。長く入院している子は、体調の良い時だけ勉強するらしいんだ。きっとよく転ぶんだろうね、ヘッドギアを付けてリハビリしてた。」
「そう。」
「7歳だって言ってたけど、病気のせいかな、すごく小さくて幼く見えたよ。初めて会った時恥ずかしそうに、王子さま、ドレスじゃなくてごめんなさいって言ったんだ。」
「朔良はその子の為に、そのスーツを着ようと思ったの?」
「女の子って王子さまが好きでしょ?こういうの着ると、あの子が喜ぶかなって思ったんだ。」
「そりゃそうよ。いくつになっても綺麗な男の子を見ると、どきどきするわ。ママだって、そうだもの。で?王子さまはその子のために何かしてあげたくなったの?」
「違うんだ。してあげたいなんて思わない。むしろ漠然としていたなりたいものが、その子のおかげで、見えてきた気がするんだ。まだ、パパに話はしていないけど。僕ね、理学療法士を目指そうと思う。」
「そう……理学療法士。朔良がね~。」
母は、上着だけを着せかけて、サイズを直す必要が無いのを確認した。
「それは、自分で考えて、決めた事なのね?」
「うん。だけど、もう一度きちんと考えて答えを出すよ。パパに話すのはそれからにする。だから、まだ話さないでね。」
「王子さま。お姫さまは、その子の他に大勢いるの?」
「どうかな。それほど多くはないと思うけど。」
「いいわ。そっちはママが院長先生に聞いてみる。少しだけママにもお手伝いさせてね。たった一人にだけプレゼント持っていくわけにはいかないでしょう?」
「本当はあの子にだけ会いたいんだけど、そうもいかないだろうなぁ。」
「それはそうよ。親戚でもなんでもないんだから。ボランティアのサンタクロースのつもりで行くことね。もしくは客寄せパンダよ、いい?」
ふと、島本の顔がよぎったのを、朔良はバッサリと脳内で打ち消した。
「ママは何するつもり?」
「朔良。ママの職業は何?」
「え~と、エステ屋さん?」
「……がっかりするわね、その言い方。でも、二日もあればいいかな。準備しておくから、待っててね、王子さま。」
そして、翌々日。
母の好みのスーツに身を包んだ朔良は、これまた母の好みの薄いベージュのトレンチコートに身を包み、大荷物を持って病院へと向かった。
かぼちゃの馬車ならぬ、愛用の軽四で。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
昨日は根性が無くなった、このちんでした。すまぬ~(´・ω・`)
お休みしたのに、覗いてくださった方ありがとうございます。
後、少しで終わります。お付き合いください。
ヾ(〃^∇^)ノ あはは~、これでカメムシともおさらばだ~!
Σ( ̄口 ̄*) 朔良姫……カメムシって何?
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