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Café  アヴェク・トワへようこそ 1 

木庭組が新規事業として目を付けたのは、カフェ経営だった。
水商売の寵児として、組長代行のままいくつかの店を抱える木本には、新しい店までは手が回らない。
そこで、ずっと木本の傍に仕えていた松本を雇われ店長にしたのだが、松本は不服そうだった。

「だりぃわ~。俺、本当は二番手のほうが良いんだけどなぁ……」

しかし木本は、松本の自分への依存を見破っていた。このままでは独り立ちできない危うさが見え隠れしている。

「親父が、諸費用全額出してくださるんだ。勝負してみろよ。俺がお前の年には、二軒回してたぞ。」
「でも、あの界隈にはカフェなんて、掃いて捨てるほどあるじゃないっすか。」
「そん中で天辺とってみろ、景色が変わるから。」
「そうかなぁ。」

木本は松本の作成した店の資料を取り上げた。
きちんとした店のコンセプト、提出する必要書類、すでに食品衛生責任者欄も埋まっている。
木本の傍で働いていたのは、伊達ではなかったようだ。

「ホールスタッフと、厨房のユニホームはソムリエエプロンの色違いか。いいじゃないか。もう内装はできたのか?」
「二日前に業者から受け取りました。すぐに掃除も入ったんで、店でさっそく面接することになってます。」
「初めての、お前の城だからな。時間ができたら覗きに行くよ。しばらくは向こうに詰めるんだろう?」
「一応休憩室も作ったんで、そのつもりです。やること山ほどあるんですよ。おれ、馬鹿だから、「やることリスト」作って丸いれてるんす。」
「はは……なんだかんだ言っても、やる気十分だ。元々几帳面だからな。」
「じゃ、行ってきます。」
「おう。しっかりな。」

*****

昭和レトロな松本の店は、古い喫茶店をリノベーションしたもので、落ち着いた作りになっている。
全体的にライトアイボリー(落ち着いた白)を使い、チェストナッツ(濃い焦げ茶)を窓枠に使ったのが、いい差色になっている。
店内にはステンドグラスを透してはいる柔らかな光で包まれていた。
まだ塗装の匂いも新しい店の通用口で、松本は高揚してくる気持ちを抑えた。
木庭組の名前を背負っている以上、失敗はできない。
これまで実業家としてのノウハウを教えてくれた木本の顔に、泥を塗るような真似をするまいと、気合を入れた。

「荒木、来てるか?」
「松本さん。良かった。今電話するところでした。募集7人かけて17人来てます。一応、厨房はおれを入れて三人、ほかはホールでいいっすよね。」
「荒木が経験者なんで助かるよ。一人ずつ入れてくれ。」

荒木は松本の古い友人で、中学生のころから知っていた。
両親が共稼ぎだったせいか、料理は中学のころから得意だった。
一歳下で、つるんで相当やんちゃもしてきたが、今はひとかどの料理人になっている。和洋中を売り物にした創作居酒屋のチーフだったのを引き抜いてきた。
移籍に相当悩んだようだが、結局松本のためならと、手を貸してくれることになった。

「ああ、そうだ。この子、本採用候補者だから名前覚えておいて。製菓衛生士の免許を持っているから、即戦力だ。フロア経験ありって書いてあるから、使えるんじゃないかな。」
「へぇ……相良直(さがらなお)、直君、23歳ね。」

面接は順次進み、いずれは夜に酒を出すつもりだからと説明し、高校生は辞退してもらった。
最後の面接希望者が、おずおずと顔を出す。

「あ……の、よろしくお願いします。相良です……」
「どうぞ入って、そこに掛けてください。」
「はい……失礼し……あ~っ!」

椅子に掛けそこね、盛大に転がった相良は大慌てだった。

「すみません……あ……椅子……あっ、眼鏡がっ……」
「大丈夫だから。落ち着いて、ほら、眼鏡はここにあるから。」
「すみません……大事な面接なのに……ああ、いやになる……」

ごしごしと目元をこする相良の手を、思わず松本は掴んだ。

「眼球に傷がつく。こすらないほうがいい……」

額にはらりとかかった明るい髪の間から、潤んだ黒い瞳が松本を見上げた。
リンゴーン……
一目で運命の恋に落ちた男の耳には、ウエストミンスター寺院の鐘が鳴り響くと言う。(うそだけど)

「あ……の……?」
「超、好み。採用するからキスさせて。」
「え……?ん~~~~っ!?」

セクハラで訴えられても仕方のない、どうしようもない雇い主だった。




まだまだちゃら~い感じの松本ですが、これからカフェオーナーとして頑張るつもりです。
よろしくお願いします。  此花咲耶

(`・ω・´)自分、がんばるんで!←松本
(´・ω・`) あの……よろしくお願いします……←相良直

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