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Caféアヴェク・トワ 君と共に2 

直はオークジホテルの広いホールで、多くのシェフと一緒に生き生きと働いていた。
笑顔で時折会話を交わしているのを見て、松本はほっと息をつく。
人付き合いの苦手な直が周囲とうまくやっていけるかどうか、未だに心配でならなかった。

「相良くん。マーブルケーキが減っている。ホワイトチョコの仕上げ頼む」
「はい」
「客前だけど大丈夫か?」
「出来ます」

ケーキバイキングの売りには、客前で実際にケーキを作って見せるパフォーマンスも含まれていた。
直とオークジホテルの若手の二人が、客の前でケーキを仕上げて見せる。
ケーキ作りには慣れていても、人前でケーキを作って披露するのは、荷が重かったが、集中すると気にならなかった。
周囲に気を配る余裕ができ始めると、木本の友人でもあるチーフシェフが、人とかかわるのが苦手な直の為に、さりげなく補佐に回ってくれるのにも気づいていた。

「すみません。なるべく早く慣れるようにしますから」
「気にするな。無理言って来てもらったのはこちらの方だ。相良くんは人当たりもいいし、十分戦力になっているよ。君の仕事は丁寧だし、急がなくていいからね」
「はい」
「出来ればこのままずっと勤めてほしいよ。真剣に考えてくれないかな?条件は考えさせてもらうから、どうかな?」
「勉強させてもらってありがたいと思ってます。でも、おれにはカフェがありますから……」
「はは……やはりね。そう言うと思っていたよ。しょっちゅう、君の様子を見に来る店長が、君を手放したりはしないだろうしね。ん~、直接、向こうと話をしてみるかな。何か、いい手はないかな」

シェフの最後の言葉は、直には聞き取れなかったようだ。
確かに直は、即戦力だった。誰の目にも、手際が良く、人当たりが柔らかい。
客に向けるぎこちない笑顔は、いつか口コミとなり、ホテルのケーキバイキング特集の記事に、スイーツ男子としてオークジホテルの有名なイケメンパティシエと並んで写真が載った。
最初はお客さん扱いで、簡単な下ごしらえしかさせてもらえなかったが、風邪でリタイヤしたパティシエの代わりに急遽入ってからは、すぐに実力を買われて客前に立つことになった。

数の少なくなったものをアクリル板一枚で隔てられた大広間の厨房で、仕上げてゆく。
直の手のひらの中で、薄い花びらの小さな薔薇の花がいくつも咲いてこぼれた。

「お待たせしました。マーブルケーキ、追加いたします」

ケーキのマーブリングは均一で美しく、添えたマジパンの小さな薔薇が客のため息を誘った。

「きゃあ~。食べるの勿体ない~」
「待ってて良かった~」
「ほんと、綺麗ねぇ。どうやって作るのかしら」
「ありがとうございます。こちらで作りますから、ご覧ください」

心を躍らせる客に笑顔を向ける直も幸せそうだった。

「ありゃ、水を得た魚だな。楽しそうだ」
「ですね~。あ、気づいたかな」

隅のテーブルから、こっそり様子を伺う松本に気づいた直が、手を上げて合図を送る。

「店長。ほら、相良くんがこっちに向かって、こっそり手を振ってますよ。振り返してやらないと」
「ああ……早く一発やりてぇな」
「はっ?一発……?」
「いや、わかってる。これが、さっき直が作ってたやつだな?」

前橋の運んできたトレイの中を確認する。

「眺めているだけでも、美味そうっすね」
「直が作るものは、どれも皆美味いんだよ。お前、さっさと食っておかわりして来い」
「は~?俺、甘いもの苦手だって、ここに来る前散々言いましたよね?生クリームだらけのは、勘弁してくださいって。」
「直の作った物だけでいい。しこたま食え」
「荒木さん~。店長がむちゃくちゃ言ってます。俺、甘いもの苦手だって言ってるのに~」
「諦めろ、前橋。恋は盲目だ。帰りに激辛ラーメン食わせてやるから、我慢して俺の分まで食え」
「俺にばっかり押し付けて~。荒木さんまでひどい~」

涙目になった前橋に同情するものは、その場にいなかった。

「皿が空いたのなら、俺が取って来てやろう」
「あ、いいっす。自分で取ります。店長に任せたら食えないほど載せそうですもん。あ~、激甘じゃないやつにしてくださいって」

席を立った松本を、前橋が慌てて追った。




本日もお読みいただきありがとうございます。
元気に働いている直君の姿を見て、松本はごきげんです。

(´Д⊂ヽ「周囲はいい迷惑なんだよ。俺は辛党なんだからな……」
(`・ω・´)「なんか言ったか?」
(; ・`д・´)「……いえ……うまいっす」
(*´▽`*)「そうだろ?直の作るものはうまいからな」

昨日、記事を上げたら時間指定するのを忘れていました。
相変わらずの抜けっぷりです。(´・ω・`)「初日から……」


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