Caféアヴェク・トワ 君と共に4
チーフシェフの言いたいことは何となくわかっていたので、直はその場所に行くのは気が進まなかったのだが、同席しろと松本が言うので渋々ついてきた。
仕事の話では、逃げるわけにはいかない。
松本と飲みに出るのが初めてだったので、そこだけは少し楽しみだった。
「あ。おいしそう……」
洒落たカクテルが運ばれてゆくのを、視線で追う直に、チーフシェフが声をかけた。
「相良くんは遠慮しないでいいから、仕事の話が終わるまでカウンターで飲んでいてね。ここは僕のおごりだから、何を頼んでもいいよ。好きなものを注文してね。明日は休みだし、松本さんがいるから安心でしょう?」
「ありがとうございます」
自分と松本の事を、この人はどこまで知っているのだろう。顔が赤らむ気がした。
背を向けた直は、高い椅子に浅く腰を下ろした。
視線が合って、口数の少ないバーテンダーが、微笑んだ。
「いらっしゃいませ。何かお飲みになりますか?」
「え……っと、後ろのテーブルの方が注文したのと同じものをください。」
「かしこまりました」
「実はね、松本さん。話というのは他でもないんです。図々しいお願いだと分かっているんですけど、相良くんをうちのホテルの洋菓子部門にくれませんか?」
「くれ……?それはどういう?直の出向は、まだしばらく続くはずですが」
「相良君には短期の出向ではなく、このままうちに就職してほしいと思っています」
「ああ、そういうことですか」
「木本に預かってくれないかと言われた時は、正直、面倒なお荷物を背負わされたと思っていたんですよ。ケーキを作るのが得意だと言う話だったけれど、製菓をかじった程度で、分かり切った口をたたくような子は、この業界には掃いて捨てるほどいますからね。多忙な時期に新人を育てるのには、ちょっとなぁと難色を示したんです」
「そうですか。兄貴……木本はそんなことを何も言っていませんでした」
「あいつには、私がいずれこういう風に言い出すだろうと、わかっていたのかもしれません。しばらく様子を見て気に入らないようなら、返してくれても構わないとまで言いました。」「そうだったんですか」
松本には、そう言った木本の表情さえ見える気がした。
「相良くんは、素直で性格もいい。こちらが思った以上に戦力になってくれています。何より相良君がいつか独り立ちしたいのなら、うちのホテルの名前はきっと役に立つと思ったんですよ」
「木本に言われるまでもなく……直に上を目指す気があるのなら、その方が良いんじゃないかと、俺も考えたことが有ります」
「それなら話が早い。相良君に話をする前に、まず上司の松本さんに筋を通そうと思っていたのですが…あれ…相良くん?」
カウンターに座っている直が振り返って、にこにこと満面の笑顔を向けている。つられて、思わず松本も微笑んだのだが、いつもと様子が違っていた。
「うふふ~♡店長、乾杯~!」
「直……酔っぱらっているのか?おまえ、何を飲んだんだ?」
「オレンジジュースでっす~」
「ジュースでこんなに酔うわけないだろ?しようのないやつだな」
「オレンジジュースだもん……おれ、嘘なんかつかないよ……」
「もんって……ああ、わかった、わかった」
「店長……もう、話は終わった?ね、帰ろ?」
松本の腕をとり、直は涙ぐんで見上げていた。
直君も少し不安なようです。
ちゃんと伝えてあげなきゃね、松本。
(*´▽`*)「わかってるって。な、直」←能天気
(´・ω・`)「……うん」
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