小説・初恋・24
「そうか、良かった・・・。
如月に恥をかかせてしまったかと思って、心配だったんだ。」
賞賛の渦中にあった自分の事を、何も分かっていない目の前の級友は、鞍を置いていない毛並みの良い若駒のようだ。
声を潜めて、耳元で颯は言った。
「君の舞踏が、一番美しかった、如月。」
「母上の次にね。」
屈託の無い笑顔で、手を振って最後の客は退出した。
「あれは?」
肩をすくめて、奏は湖西から話をそらした。
「ただの級友です、お爺様。
さあ、夜露は身体に、毒ですよ。」
「・・・あれを欲しいとは、言わぬのだな。」
奏に、言えるわけがなかった。
たった一度だけ・・・幼い奏が、懐いた小間使いにお嫁に行くのをやめて側にいてと、泣いたことが有る。
それを知った湖西が黙って部屋を出て行き、一体何をしたか・・・
次の日、奏は小間使いの部屋を覗いて、卒倒した。
奏の欲しかった優しい手は血にまみれ、慈愛の瞳は二度と開かれなかった。
彼女は冷たい骸となり、泣きすがった奏に、血の付いたステッキを振って湖西はこう言ったのだ。
「これで、美代は嫁にはいけまいよ。」
「望みどおりだな、奏。」
頬にぴっと血しぶきを受けて、幼い奏はあまりの恐怖に、目を瞠ったまま戦慄の中で言葉を失った。
一体、この老人がどうやって今の地位を手に入れたか。
それを語らなければ、誰も奏の心の内を理解できないだろう。
如月に恥をかかせてしまったかと思って、心配だったんだ。」
賞賛の渦中にあった自分の事を、何も分かっていない目の前の級友は、鞍を置いていない毛並みの良い若駒のようだ。
声を潜めて、耳元で颯は言った。
「君の舞踏が、一番美しかった、如月。」
「母上の次にね。」
屈託の無い笑顔で、手を振って最後の客は退出した。
「あれは?」
肩をすくめて、奏は湖西から話をそらした。
「ただの級友です、お爺様。
さあ、夜露は身体に、毒ですよ。」
「・・・あれを欲しいとは、言わぬのだな。」
奏に、言えるわけがなかった。
たった一度だけ・・・幼い奏が、懐いた小間使いにお嫁に行くのをやめて側にいてと、泣いたことが有る。
それを知った湖西が黙って部屋を出て行き、一体何をしたか・・・
次の日、奏は小間使いの部屋を覗いて、卒倒した。
奏の欲しかった優しい手は血にまみれ、慈愛の瞳は二度と開かれなかった。
彼女は冷たい骸となり、泣きすがった奏に、血の付いたステッキを振って湖西はこう言ったのだ。
「これで、美代は嫁にはいけまいよ。」
「望みどおりだな、奏。」
頬にぴっと血しぶきを受けて、幼い奏はあまりの恐怖に、目を瞠ったまま戦慄の中で言葉を失った。
一体、この老人がどうやって今の地位を手に入れたか。
それを語らなければ、誰も奏の心の内を理解できないだろう。
- 関連記事
-
- 小説・初恋・31 (2010/02/14)
- 小説・初恋・30 (2010/02/14)
- 小説・初恋・29(血の飛沫) (2010/02/14)
- 小説・初恋・28 (2010/02/14)
- 小説・初恋・27(如月奏一郎の悲しみ ) (2010/02/14)
- 小説・初恋・26 (2010/02/14)
- 小説・初恋・25 (2010/02/14)
- 小説・初恋・24 (2010/02/14)
- 小説・初恋・23(如月湖西) (2010/01/04)
- 小説・初恋・22 (2010/01/04)
- 小説・初恋・21 (2010/01/04)
- 小説・初恋・20 (2010/01/04)
- 小説・初恋・19 (2010/01/04)
- 小説・初恋・18(夜会) (2010/01/04)
- 小説・初恋・17 (2010/01/04)
- 如月奏の物語(明治) >
- (明治)はつこい
- 3
- 0