小説・初恋・36
「奏さまが死んでおしまいになるかと思って、必死だったんです。」
「・・・それで、構わなかったのに。」
白雪は、あんまりだと言って泣いた。
側に控えるだけの白雪の感情が、珍しく露わになったのは、ひたすらの忠義だろうか。
颯は征四郎にするように、白雪をひょいと膝の上に載せて、よしよしと頭を撫でてやった。
「湖上様。」
しばらく、されるままだった白雪が、涙を拭いた。
「ん?」
「一度、聞きたかったのですが何月生まれです?」
「二月だ。」
「わたくし、湖上様より年長です。」
ああ・・・清輝が、天を仰いだ・・・
奏は白雪の父に宛てて、奏一郎が遺言を残していたと知り、中身を知りたがった。
幼いときに、父は肺病に罹り遠目でしか姿を見ることも叶わなかったから、ほとんど関わりがなかった。
少ない記憶の中で、覚えていたのは奏一郎の穏やかな「声」だけだったが、それも颯の存在で危うくなっていた。
「ぼくは出会った時から、父の声を持つあなたが嫌いでした。」
「大切な父の思い出が、いつか意地悪なあなたに、取って代わられてしまったから。」
「大勢で居ても、いつもあなたの声だけを耳をそばだてて聞いてしまう・・・。」
・・・清輝は、颯が鈍感で良かったと思う。
まるで告白のような話を聞いても、颯はただの話として、にこにこと笑っているだけなのだ。
そういえば、颯もうっとりと見とれながら、女じゃなくて良かったと、宣言していたのではなかったか・・・?
「もしかすると、如月には初恋なのか?」
と、小さな声で白雪に問うてみる。
「ご自覚はないでしょうが、おそらく。」
「お互い、主家は選べぬからな、白雪。」
「はい。骨の折れることです。」
憂いの晴れた二人は笑った。
「・・・それで、構わなかったのに。」
白雪は、あんまりだと言って泣いた。
側に控えるだけの白雪の感情が、珍しく露わになったのは、ひたすらの忠義だろうか。
颯は征四郎にするように、白雪をひょいと膝の上に載せて、よしよしと頭を撫でてやった。
「湖上様。」
しばらく、されるままだった白雪が、涙を拭いた。
「ん?」
「一度、聞きたかったのですが何月生まれです?」
「二月だ。」
「わたくし、湖上様より年長です。」
ああ・・・清輝が、天を仰いだ・・・
奏は白雪の父に宛てて、奏一郎が遺言を残していたと知り、中身を知りたがった。
幼いときに、父は肺病に罹り遠目でしか姿を見ることも叶わなかったから、ほとんど関わりがなかった。
少ない記憶の中で、覚えていたのは奏一郎の穏やかな「声」だけだったが、それも颯の存在で危うくなっていた。
「ぼくは出会った時から、父の声を持つあなたが嫌いでした。」
「大切な父の思い出が、いつか意地悪なあなたに、取って代わられてしまったから。」
「大勢で居ても、いつもあなたの声だけを耳をそばだてて聞いてしまう・・・。」
・・・清輝は、颯が鈍感で良かったと思う。
まるで告白のような話を聞いても、颯はただの話として、にこにこと笑っているだけなのだ。
そういえば、颯もうっとりと見とれながら、女じゃなくて良かったと、宣言していたのではなかったか・・・?
「もしかすると、如月には初恋なのか?」
と、小さな声で白雪に問うてみる。
「ご自覚はないでしょうが、おそらく。」
「お互い、主家は選べぬからな、白雪。」
「はい。骨の折れることです。」
憂いの晴れた二人は笑った。
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