小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・15
いびつな親子関係が成立した翌日。
俺は銀行に行くついでに、お袋を引き取って以来、疎遠になっていた長男夫婦を訪ね、深々と頭を下げた。
「詫びが遅くなって、申し訳なかった。」
「お袋のこと、なんと言っていいか・・・最後までちゃんと預かって面倒を見るといったのに、こんなことになって本当にすまなかった。」
深々と頭を下げて謝る俺に、
「どうか、お手を上げてください、周二さん。」
と兄貴の嫁が言う。
「こちらこそ。本当に申し訳ありませんでした。」
その頬は、やつれていた。
きっと彼女も、責任を感じて自分を責めていたのだ。
何も悪くなど無いのに・・・。
「環境が変われば、お母さんの痴呆が進むだろうとわかっていたのに、わたし、美千代さんにみんな、押し付けてしまって・・・ごめんなさい。」
火事の原因は、お袋がタオルを電気ストーブに載せたことだったと、消防署と警察から説明を受けたらしい。
幼い愁都の死は、兄夫婦にも衝撃を与えた。
たまに逢えば、兄夫婦の子どもたちとも、まるで子犬のように仲がよかったから・・・・
疲れて眠り込んでいたその日の美千代は、お袋の叫び声に驚いて、何とか母親を助けようとして力尽きたらしかった。
お袋の部屋に、美千代と愁都が揃って、お袋を守るように倒れていたと、消防署で聞いたとおり俺は告げた。
「きっと、三人仲良く一緒にいるさ。」
「・・・もうね、過ぎたことを思い返して嘆くのは止めようと思うんだ。」
「何もかも失ったけど、俺も生きるのを止めるわけにはいかないから・・・。」
兄貴の固めた拳が、ふると震えていた。
見栄を張っていた。
本当は、昨日まで屍のようだったと自覚はある。
だが、みぃくんを手に入れたたった一日で俺の気持は変わっていた。
「俺は、おまえに申し訳なくて、見舞いにも行けなかったんだ。すまんな。」
搾り出すように、兄は言葉を紡いだ。
拳の上に、ぽたりと滴が落ちた。
そうか、兄貴が目線を合わせないのは、この頭の怪我が原因か。
「あのさ、兄貴。」
「今は目立つけど、この傷なら、皮膚移植をすることにしたから。」
わざと明るい声で、俺は告げた。
「元通りとは行かないだろうけど、最近はいいヅラもあるしね。」
「そうか。」
「それで、おまえ、これからどうするんだ?仕事は?」
「前の仕事は、辞めたそうじゃないか。」
やっと話が本題に入ってきた。
どこから聞いたのか、そんな話も知って心配してくれたんだと思う。
「入院が、長かったからね。・・・自分でも、仕事に戻ろうとは思えなかったし。」
もう失うものはないと、腹をくくった。
海広の事を話すのは、今しかない。
「これからしばらく入院して、形成外科の世話になる。友人の子どもを引き取ってやろうと思って。」
「子ども・・・?おまえ、子どもがいるのか?」
真面目な兄貴はどうやら、俺がどこぞで浮気をしてこさえた子どもを、この機会に引き取るのだと思ったらしい。
呆れたように、語気が強まった。
「おまえ、いくら何でも美千代さんに・・・」
悪いじゃないかと、兄貴が言う。
BL観潮楼様の末席に加えていただいて、短編の修行中です。
一日目だったので、ちょっとがんばりすぎました。
二本上がっていますので、よろしければ、目次か最新記事でお読みいただけたらと思います。
BLと少年愛と、恋愛のくくりが曖昧なままですが、全てが『愛』だと思っていただけたら嬉しいです。
昨日は、私事ながらお誕生日でした。
拍手いただいたのが、何だかお誕生日おめでとうと言っていただけたようで、とても嬉しかったのです。
いい一日でした。此花
にほんブログ村
にほんブログ村
←一個、増えてる・・・
いつもお読みいただきありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。此花
俺は銀行に行くついでに、お袋を引き取って以来、疎遠になっていた長男夫婦を訪ね、深々と頭を下げた。
「詫びが遅くなって、申し訳なかった。」
「お袋のこと、なんと言っていいか・・・最後までちゃんと預かって面倒を見るといったのに、こんなことになって本当にすまなかった。」
深々と頭を下げて謝る俺に、
「どうか、お手を上げてください、周二さん。」
と兄貴の嫁が言う。
「こちらこそ。本当に申し訳ありませんでした。」
その頬は、やつれていた。
きっと彼女も、責任を感じて自分を責めていたのだ。
何も悪くなど無いのに・・・。
「環境が変われば、お母さんの痴呆が進むだろうとわかっていたのに、わたし、美千代さんにみんな、押し付けてしまって・・・ごめんなさい。」
火事の原因は、お袋がタオルを電気ストーブに載せたことだったと、消防署と警察から説明を受けたらしい。
幼い愁都の死は、兄夫婦にも衝撃を与えた。
たまに逢えば、兄夫婦の子どもたちとも、まるで子犬のように仲がよかったから・・・・
疲れて眠り込んでいたその日の美千代は、お袋の叫び声に驚いて、何とか母親を助けようとして力尽きたらしかった。
お袋の部屋に、美千代と愁都が揃って、お袋を守るように倒れていたと、消防署で聞いたとおり俺は告げた。
「きっと、三人仲良く一緒にいるさ。」
「・・・もうね、過ぎたことを思い返して嘆くのは止めようと思うんだ。」
「何もかも失ったけど、俺も生きるのを止めるわけにはいかないから・・・。」
兄貴の固めた拳が、ふると震えていた。
見栄を張っていた。
本当は、昨日まで屍のようだったと自覚はある。
だが、みぃくんを手に入れたたった一日で俺の気持は変わっていた。
「俺は、おまえに申し訳なくて、見舞いにも行けなかったんだ。すまんな。」
搾り出すように、兄は言葉を紡いだ。
拳の上に、ぽたりと滴が落ちた。
そうか、兄貴が目線を合わせないのは、この頭の怪我が原因か。
「あのさ、兄貴。」
「今は目立つけど、この傷なら、皮膚移植をすることにしたから。」
わざと明るい声で、俺は告げた。
「元通りとは行かないだろうけど、最近はいいヅラもあるしね。」
「そうか。」
「それで、おまえ、これからどうするんだ?仕事は?」
「前の仕事は、辞めたそうじゃないか。」
やっと話が本題に入ってきた。
どこから聞いたのか、そんな話も知って心配してくれたんだと思う。
「入院が、長かったからね。・・・自分でも、仕事に戻ろうとは思えなかったし。」
もう失うものはないと、腹をくくった。
海広の事を話すのは、今しかない。
「これからしばらく入院して、形成外科の世話になる。友人の子どもを引き取ってやろうと思って。」
「子ども・・・?おまえ、子どもがいるのか?」
真面目な兄貴はどうやら、俺がどこぞで浮気をしてこさえた子どもを、この機会に引き取るのだと思ったらしい。
呆れたように、語気が強まった。
「おまえ、いくら何でも美千代さんに・・・」
悪いじゃないかと、兄貴が言う。
BL観潮楼様の末席に加えていただいて、短編の修行中です。
一日目だったので、ちょっとがんばりすぎました。
二本上がっていますので、よろしければ、目次か最新記事でお読みいただけたらと思います。
BLと少年愛と、恋愛のくくりが曖昧なままですが、全てが『愛』だと思っていただけたら嬉しいです。
昨日は、私事ながらお誕生日でした。
拍手いただいたのが、何だかお誕生日おめでとうと言っていただけたようで、とても嬉しかったのです。
いい一日でした。此花
にほんブログ村
にほんブログ村
←一個、増えてる・・・
いつもお読みいただきありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。此花
- 関連記事
-
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・22 (2010/08/02)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・21 (2010/08/01)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・20 (2010/07/31)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・19 (2010/07/30)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・18 (2010/07/29)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・17 (2010/07/28)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・16 (2010/07/27)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・15 (2010/07/26)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・14 (2010/07/25)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・13 (2010/07/24)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・12 (2010/07/23)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・11 (2010/07/22)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・10 (2010/07/21)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・9 (2010/07/20)
- 小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・8 (2010/07/19)