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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・16 

「いや、いや。誤解しないでくれ、兄貴。

その子と俺は、血がつながっているわけじゃないんだ。」

俺は慌てて、みぃくんについて知っている情報を、言い訳がましいかなと思いながら並べてみた。

「その子は、母親独りで育てていたんだが、今、母親はくも膜下で倒れて植物状態になっていてね。」

「籍の入っていない恋人がいて、面倒を見ていたんだが、子どもを育てた経験の無い若い男でさ。」

いつになく、饒舌に一気に報告した。

「思い切って、養子にすることにした。愁都と同じ年齢だ。」

愁都の名前に、一瞬戸惑ったような空気が流れたが、二人は子どもに関しては何も言わなかった。
だが、その話をきっかけに、兄が調度良かったという風に、話を振ってきた。

「周二、うちの仕事を手伝ってくれないか?もし、良かったらだけど。」

兄貴は、小さな工務店を営んでいた。
子どもを育てるなら、力になれると思うと兄貴が言い、隣で兄嫁が頷いた。

「愁君と、うちの子供たちは仲がよかったし。」

「出来れば入院する間、私がその子の面倒を見させてもらっても良いかしら。」

「ありがとうございます。義姉さん。正直言って、助かります。」

俺は素直に礼を述べた。
社会に復帰するリハビリがてら、言葉に甘えるのも良いかもしれない。
あのころは義姉さんも、痴呆が始まったお袋を抱えて、途方にくれていたのだろう。
根が悪い人ではないと、知っていた。
兄貴と結婚してからずっと、お袋が俺のところに来るまでの長い間、ずっと向き合ってくれていたのだから。
育ち盛りの男の子が三人も居て、工務店の仕事や家事で忙しい上に、お袋の痴呆が始まって八方ふさがりになったのだと思う。
兄貴は実直でいいやつだったが、寡黙で職人気質で、言葉の足りない不器用な質だった。

・・・言い過ぎ、俺。

あたり前だが、子どもを育てるのは、綺麗ごとではすまない。
現実として、大学まで行かせるとなると、教育費は半端無くかかるだろうし、行政は父子家庭には結構厳しいらしい。
そして、脳裏にシャツ一枚のしどけないみぃくんの格好を思い浮かべて、預けるわけにはいかないと思い直した。
お菓子はぼろぼろ零すし、箸もちゃんと使えていなかった。
まともなしつけも、教育も受けていないだろうあの子を、いきなり下町の兄夫婦に逢わせるわけにはいかなかった。
ひとまず俺が何とかしなければ。

俺はふと、野生の狼に育てられた少女を思い出す。
「アマラ」と「カマラ」と名づけられた、二人の少女。
彼女達は、人間になれず、狼の群れにも戻れず、結局半人半狼のまま、中途半端に命をなくした。
みぃくんを、決してそんな不幸な目にあわせてはならなかった。
又、連絡すると約束して、俺は兄夫婦の家を後にした。

マンションの入り口で、みぃくんは従順な子犬のように、新しい飼い主の俺を待っていた。




いい子だね、みぃくん。
お読みいただきありがとうございます。
いい子のみぃくんに、拍手お願いします。

1000hpになりましたら、ssを書くつもりでした。
自分でイラストも描くつもりでしたのに、間に合いません。
なので、もう少し先になります。
嬉しくて舞い上がってます。
お越しいただきありがとうございました。此花


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