小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・90
ぼくは、ものすごく驚いてる。
初恋の佐伯さんに、ぼくは男として反応した。
お酒も飲んでいたし、記憶も余りないけど、腕の中に愛おしい柔らかい何かが居たという記憶はある。
洸兄ちゃんが、色々調べてくれたたくさんの症例の中に似たような話があった。
ぼくは、自分だけが特別じゃないってほんの少し安心したけど、何だか今回のことも、説明しようにも余りにねじれていてややこしい気がした。
身体が男の子のぼくの中には、オンナノコが独り住んでいる。
オンナノコみたいなぼくは、ボーイッシュな女の子の佐伯さんが好き・・・。
オトコノコとオンナノコが、一緒に住んでいるぼくの体。
洸兄ちゃんがここにいたら、なんと言うだろう。
「初恋が叶って良かったじゃないか、みぃ。」って言うのだろうか。
洸兄ちゃんがくれた資料には、性別適合手術は、この場合しないほうが良いかもしれないと赤い線が引いてあった。
普通に結婚生活を送ることが可能なのは、このタイプらしい。
それで、幸せになれるってこと・・・?
「もし、夫婦の奥さんのほうが、実は俺、男だったんだと告げた場合、どうなると思う?」
洸兄ちゃんの先輩に相談に行ったら、逆に質問された。
「わからない・・・です。」
「殆どが離婚するって、データがある。で、だんなの方が実は女だったと告げた場合、どうなると思う?」
「離婚ですか?」
「ところがね、上手くいくケースが多いんだよ。
女性の方が、生命として種を残すために多少の例外にも順応するってことだろうね。」
そうかもしれない。
佐伯さんはこの中途半端な、オトコノコにもオンナノコにもなりきれないぼくを、好きだって言ってくれた。
こうしてみると、女の子は、つくづく不思議な生き物だと思う。
佐伯さんの許容範囲はすごく広くて、ぼくは驚いていた。
ユリアちゃんと会ったときも普通に、夏の新製品の化粧品の話なんかしていた。
後、寄せて上げる下着とかの話も。
「わたしね、中身がオンナノコで、身体が男の子の優しい海広君が好きよ。それじゃいけないのかしら?」
「あの、それは、嬉しいんだけど・・・。だけど、あの、ぼくまだ学生で生活のめども立たないし、ごめんね。」
これは、紛れもなく逃げだ。
医者になるには時間がかかりすぎるから、お付き合いするのもどうしようと振ってみた。
しばらく黙っていた佐伯さんは、なるようになるわと笑った。
何度か会った後、ある日、佐伯さんはくるりとお腹をなでた。
「前に言ってた、生活の目途が立たないから付き合えないって、話なんだけど。」
「松原君が一人前の医者になるまであたしも働くわ。ママが二人でも、いいじゃない。」
「はい?・・・それは、佐伯さんにもなりたい仕事が・・・え?ママって・・・えぇっー!?ママって!?わ~・・・。」
ぼくの一オクターブも上の素っ頓狂な叫びを、佐伯さんが毅然と受け流した。
まあ、ここは、確かに叫ぶよね~・・・
しなやかで強くて柔軟な佐伯さんみたいな、女性ばかりだと世の中生きやすくていいと思います。
悠然として理解力があって許容量が多い、きっとBL好きの女性だと思います。
綺麗なものが好きですしね。
展開も、急転直下です。 此花
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