青になれ・1
浜辺で走るのが一番いいんだと、陸上部顧問は自信を持っている。
なんでも顧問の母校にはオリンピックに出た選手が居て、門外不出のその練習方法を聞いてきたという。
確かに言われるままに、砂浜ジョギングを100m、200m、300mとセットを入れて行うとかなり効果的な気がする。
砂浜で地面を蹴る動作を意識しすぎると、足は砂に取られるが何度も走っているうちにこつを覚えて、砂に足がとらわれなくなってくる。
その感覚が自分のものになるのは、とても心地よかった。
速く、速く、速く・・・空の青さに溶けるまで。
頭の中のイメージでは、常に今より一秒も速くゴールを切る自分を浮かべていた。
百分の一秒を競う世界で、それは普通ではないのだけど・・・
「それじゃ、今度の大会に出るリレーのメンバーを発表するから。」
前回のタイムがほんの少し良かったくらいで、メンバーに選ばれるわけがない。
何しろ、インターハイ出場がかかっているのだ。
次々選手が名前を呼ばれる集合場所で、流れる雲に気をとられていた。
「・・・と、最後のメンバーは沢木。」
ぼうっとしていて、隣のやつに呼んでるぞと、つつかれた。
「沢木ー?」
「はっ、はいっ!」
「今のままの練習量、落とすなよ。期待してるから。」
一瞬、目の前が鮮明になり、自分で頬っぺたをつねったら痛かった。
「すごいなあ、沢木。一年で100メートルのリレーメンバーだってさ。」
「お前が入ったとき41秒切ったんだろ?」
「沢木、努力してるからなぁ。」
「いてーよっ。」
興奮で、頬が紅潮するのがわかる。
乱暴な祝福を受けながらも、すごくうれしかった。
もし、インターハイに出ればテレビの中継が入る。
子供ころから、自分の走るのを楽しみにしていた遠くに住む祖父母への何よりの贈り物になるはずだった。
今は、体が弱って遠くの施設に入所している祖父母を思うとき、胸がきゅうっとなる。
「じいちゃん、ばあちゃん。ぼくね、テレビに出るんだよ。」
そんな電話に、きっと向こうでは大喜びするだろう。
沢木隼の父親、沢木淳也(じゅんや)高校一年生の春だった。
ぴんくのぞうさんの隼ちゃんのパパの、ほのかな初恋話です。パパは愛する妻に瓜二つだと思っていますが、実は隼ちゃんパパに似ているという設定でした。や~ん・・・可愛い~(//▽//)
どうぞよろしくお願いします。 此花
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(pioさま超絶美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。本当に綺麗お子さまです~、きゅんきゅん。
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