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紅蓮の虹・53 

「四郎は、自分の無力をいつも責めていた。」


「でもね、わたしに何か頼み事をすることはなかったね。」


「彼には、何事も「でうすの思し召し」なんだそうだよ。」


「何かしてもらうのではなくて、いつも自分に何ができるか懸命だった。」


俺の四郎の記憶は、残念ながら殆どない。


この清らかな少年と俺は、不思議なほど似ていなかった。


どうして何も覚えていないのだろう・・・



「それは、原城に篭城したときも変わらなかった。」

「わたしの四郎・・・」

コウゲイは四郎の映像を食い入るように見つめながら、触れた指に力をこめた。

・・・俺は、四郎じゃない。

何も覚えてない。

俺は、そこに苛立った。


やがてコウゲイは、俺の好きな落ち着いた大人の格好で仕事に出かけた。


株主総会があるので、忙しいんだってさ・・・


「わたしの虹。

書類よりも君を眺めている方が楽しいんだが、この世界で生活するには金とやらが要るんだ。」


「いってらっしゃい。」


窓から、コウゲイの乗った車に手を振った。


どんな顔をして、社長業をやっているのか見てみたい気もするね。


生活力のある、龍の背中に俺はおんぶしていた。

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