SとMのほぐれぬ螺旋・11
「早くいこ、周二くん。あまり遅くなったら迷惑だから。」
珍しく二人で出かけるらしい。
「これから、どこかへ出かけるんですか、周二坊ちゃん。隼坊ちゃん。」
「おう。隼がどうしても心配だって言うから、ちょっと様子見にな・・・」
「様子見?どなたかの見舞いかなにかですか?」
話しているのが、木本だと気がついて周二は話をやめた。
元々、人の恋路をどうこうするつもりは無い。
「樋渡先輩が、もう二日も学校を無断欠席して・・・」
と、話しかけて隼も話をやめたが、木本は思い出した。
二日前、携帯にたった一度蒼太から着信があった。
「二日前・・・って?蒼太は二日前から、音沙汰なしなんですか?」
「ああ。」
胸騒ぎに押されるようにして、木本が着信を確認して、蒼太に電話をかける。
長い呼び出し音のあと、やっと出た蒼太の声はしわがれて老人のようだった。
『・・・は・・・い・・』
「蒼太?どうしたんだ、その声?」
『き・・・さ・』
「・・・蒼太?・・・どうしたんだ、蒼太!おい、大丈夫なのか!」
電話の向こうで激しく咳き込む蒼太に、胸騒ぎを覚えた木本はそのまま飛び出した。
「木本っ!待てって!一緒に行くから。」
動転して蒼太のところへ向かう木本を、なぜだか「らしい」と周二は思った。
自分は堅気じゃないからまともな恋なんざできないと、生意気にうそぶいてた昔、誰にだって好きな相手に好きだと伝える権利はあると木本が背中を押してくれた。
恋愛の土俵にあがるのは、堅気も893も外人もみな同じに怖いもんなんですよと、木本が言ったのは数年前の話だ。
今の木本をがんじがらめにするのが環境なら、いつかは自分がそれを解いてやろうと周二は思っていた。
若い頃から世間を分かりすぎた男の不器用な恋心は、本人は知ってか知らずか、周囲には分かりやすく駄々漏れだ。
高級外車を操る木本は、今は愛する亡国の姫君を救いに行く白馬の王子のようだった。
「蒼太ー・・・っ?」
叩こうとしたドアに鍵がかかっていないのに愕然としながら、飛び込んだ部屋で木本は哀れな思い人が息絶え絶えになっているのを発見する。
二日前にシャワーを浴びたきり、素肌にガウンを引っ掛けた状態で、蒼太はその場に倒れこんでいた。
何とかベッドのそばに這っていったものの、意識が朦朧としていたようだ
肺に炎症を起こし、40度を超える熱で動けないまま蒼太は、声をかけられても身じろぎもしなかった。
名を呼び、木本がひっくり返して抱え上げるとかすかに微笑んで、力なく床に腕が落ちた。
「蒼太っ!蒼太・・・?おい、蒼太っ!しっかりしろ!」
動けないながら、何とか携帯で誰かに助けを求めようとしたのだろう。
開かれたままの携帯電話を操作して番号を見たとき、木本の唇がかすかに震えた。
この状態で蒼太が求めたのは・・・。
「愛されてんじゃね~か。」
携帯を覗き込んだ、周二が言う。
「病院に、連絡付いたよ。先生が直ぐに連れていらっしゃいって。」
隼の主治医に連絡が付き、ベッドの確保と診察を約束してくれた。
大切な壊れ物を抱くように、毛布に包まれた蒼太は今、最愛の男の腕の中に居るのも知らず熱にうなされていた。
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楽しく書いていたら、とうとう10話を越えてしまいました。
これでは、ssならぬLLです~・・・(´;ω;`)
思いがけず長くなってしまいましたのでとてもssとして、観潮楼さま企画に参加するには良くないのではないかと思います。
続き物ですのでカテゴリーは一緒にしてありますし、このまま書いてゆきますが、10話を区切りに参加バナーを外すことにいたしました。
よろしければ、これからもお読みいただけたらと思いますし、観潮楼さまには、また新しいssを書いてお世話になりたいと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いします。 此花
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