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SとMのほぐれぬ螺旋・12 

気が付いて薄く目を開けると、見慣れない白い天井が目に入った。

『ああ・・・ぼく、死んじゃったんだ・・・』

声がひどくかすれていた。
視界に木本の優しく微笑む顔がある。

『天使・・・?ぼくの好きな人の顔だ・・・神、さま、ありがとうございます・・・』

蒼太の天使が、そばに来て頬っぺたをむに・・・と真横に引っ張った。

「学級文庫って言ってみな、蒼太。」

『・・・がっくう、うんこ・・・?』

見開かれた蒼太の目に、見る見るうちに水滴が盛り上がりどっと溢れた。
きゅっと抱きしめられた骨の太い天使から、蒼太の好きな柑橘系の匂いがする・・・

『ああ・・・幸せ、もう夢でも・・・いいや・・・』

幸せな幻覚を見ていると蒼太は思っていた。
点滴に入れられた眠り薬は蒼太を夢の世界へと強引に誘ってゆこうとする・・・
今、そこに居る男を失いたくなくて、蒼太は必死にかき付いていた。

「消えちゃう・・・いやだ・・・眠ったら、消えちゃう・・・」

いやだ、いやだ、眠りたくないと首を振り求めるがやがて力なく、ぱたりとベッドに沈んだ。
気を失ったように眠る蒼太の目じりに、涙がたまって光っていた。
この上ない優しいしぐさで、木本はそっと唇を寄せて涙を吸ってやった。

枕辺でじっくりと顔を見るのは初めてのような気がする。
青ざめた小さな顔に張り付いた細い髪を払ってやった。

「失礼。」

隼の主治医が入ってきた。

「せんせ。会長の具合はどうですか?だいじょうぶ?」

隼の心配に、笑顔を向けると、医師は木本には硬い表情で問うた。

「あなたが、保護者ですか?」

「まあ、そういうものです。保護者から、委任されてます。」

あれからすぐに親に連絡を入れたが、委員会に出席中とかで母親とは連絡が付かなかった。
代わりに大臣秘書という肩書きの冷めた野郎が、先生は政局が大変な時期ですので、申し訳ありませんが直ぐに入院させていただけますかと電話口で冷静に告げた。

「入院費用などは、すべてこちらから病院側に連絡いたしますので、特別室に入院させてください。」

「都合が付けば、一週間以内に数時間、見舞いの時間が取れると思います。付き添いの手配もこちらでいたしますから、以後のご心配には及びません。」

木本が嫌味をこめて、もしよろしければ、こちらで責任を持って預かりましょうか?と秘書に告げた所、そうしていただけたらこちらも助かりますと紋切り型の返答があり、あやうく切れそうになった。
必要経費は、請求していただければお支払いしますと、向こうは告げたのだ。

「おい、ここ病院だぞ。」

周二の一声で、やっと冷静になれたが怒りで手の震えが治まらないのは、本当は自分に向けてのことだ。

こんなになるまで、ほおって置いたのは誰だ。
電話が鳴ったのを知っていたのに、自分を立て直すのに手一杯で、蒼太を思いやることもしなかった。

もし、このまま蒼太に何かあったなら・・・

「おれの、せいだ。」

木本の握り締めた拳が白くなり、血管が浮いた。




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