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ずっと君を待っていた・22 

「お前達の娘がいい交わした、オロチと言う男は、長く生きたために霊力を持った大蛇の化け物だ。」

「ば、ばけもの・・・っ!?な、なんと・・・っ!」

腰を抜かしそうに驚いたのは、母親のテナヅチだった。

「そのような・・・!オロチは優しい若者で、何日も懸命に農作業を手伝ってくれるような男です。」

欲しいものを手に入れるためなら、誰だって嘘の一つや二つは即座につくだろうと、スサノオは言葉巧みに婚礼間近の娘の母親を煽った。

「化け物の甘言に騙され、この私の言葉を聞かぬなら、それも良い。」

娘を愛する余り、真実を見抜けなかった愚かな母親は、スサノオと共に父を懐柔にかかった。
鎌を磨いていたアシナヅチは、さすがにスサノオの言葉を、にわかには信じなかった。
父は、オロチは確かに昔は乱暴者だったが、クシナダと共に里の豊穣に貢献し、出雲の地を走る八つの川を治める神だと知っていたのだ。

「せっかくのお申し出なれど、わたくしどもは、クシナダヒメが自らよき伴侶を選ぶだろうと思っております。」

しかし、スサノオは直も重ねて言う。

「そうだ・・・確かクシナダヒメには・・・姉御がいたそうだが、お達者か?」

その一言に、母はぱっと顔色を変えた。

「わたくし達の娘は、八人居ましたが、遠くに嫁いだ今はどうしているものやら行方が知れませぬ。」

「その七人までが、オロチの生贄になっていたとしたら?」

スサノオは、ぐいと母親の顔を覗き込んだ。

息を呑む父母。

「まさか、そのような・・・!」

にわかには信じがたい、スサノオの言葉だった。
しかし両親は、はっきりと否定できなかった。
遠くの国に平和に暮らしているはずの姉達は、各々幸福に暮らしていたのだが、しばらく里帰りなどはしていなかったのだ。

そこにスサノオは付け込み、言葉巧みに不安を煽ったのだ。
実際は、スサノオは姉達のことは何も知らなかった。
村で噂を聞き、脚色したに過ぎない。

「気の毒だが娘御たちは、八つの頭の大蛇に飲み込まれてしまったのだろう。」

とうとう、母のテナヅチは短く悲鳴をあげて卒倒してしまった。

「あの男の本性が、私のこの眼には見える。なぜなら私は、国を創ったイザナミ、イザナギの息子として世界を見渡す目を持っているからだ。」

磨かれた鎌に目をやって、父アシナヅチはついに決意した。

「我が娘、クシナダをどうすれば救うことができるでしょうか?」

スサノオにはオロチの本性が龍神の息子で、大蛇が変化したものと見えていた。
だがクシナダの美貌によこしまな心を抱き、スサノオはオロチを退け自分のものにしたいと思った。

古の物語に残る方法を、スサノオは告げた。

「八つの甕(かめ)に並々と酒を満たし、山のふもとに並べるが良い。」


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