ずっと君を待っていた・23
出来るだけ・・・と、スサノオは声を潜めた。
「沢山の馳走を並べ、歓待してやるが良い。」
にやりと、狡猾に口角が上がった。
「油断させて、切り刻むのだ。」
「生命力の強い大蛇が、二度と再生できぬように微塵にな。」
スサノオの描いた策にまんまと騙されて、父母は娘にも秘密で八つの山々のふもとに八つの門を立て、酒の甕を置く。
強い酒(八塩折之酒)を用意し、酒桶に満たし準備が整った頃、オロチは花嫁を娶る支度を整えてテナヅチ、アシナヅチの元へ現れた。
父、海の宮に住む龍神から神器である天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を拝借し、腰に差したその姿はいかにも神々しい貴人であった。
最上の礼を取り、高貴と言われる紫を使った紫地獅子唐花紋錦唐衣の朝服をまとった美しい貴公子は、娘の前に立ち求婚した。
頬を薄紅に染め、駆け寄る娘。
「オロチさま!」
その髪には、オロチが贈った海で咲く珊瑚の桃の花が飾られていた。
「そなたの方が、花のようじゃ。」
おおらかな古代、妻問婚は夫となるものが妻とするべき娘の元を訪れ名を問い、相手が答えれば結婚の約束となる。
「我は龍神の息子、高志之八俣遠呂知である。」
「この平野で稲を育て、駕籠を持つ美しい娘よ。そなたの家と名を我に告げよ。」
クシナダヒメはわが名は櫛名田比売と名乗り、自分の家にオロチの手を取り招き入れた。
「これで、結婚の義はかなった。」
互いに手を取り、恋人同士は結ばれて、行く末を夢見た。
「ささやかながら、祝いの膳を用意しております。」
父母はオロチの手を取り座に上げたが、そのとき、この貴公子の袖口から覗いた、隠された龍族の銀鱗の肌を見てしまった。
「やはり、スサノオさまのいうとおり正体は大蛇に違いない。」
「クシナダヒメも食らう気に違いない。」
内心の狼狽を隠しながら、酒肴を勧めた。
大蛇が霊力を強めて、やがては天に昇り龍になるのだと父母は知らなかった。
「父御どの。顔色がすぐれぬが・・・?母御も、いかがいたした?」
「こ、これは・・・オロチさま。余りの喜びに打ち震えて居るのでございますよ。」
オロチは素直に眼を細め、杯を受けた。
「なんと言う、佳き寿ぎでございましょう。」
オロチは愛する娘の両親に、結婚を快諾されて機嫌良く、勧められるまま何杯も強い八塩折之酒を煽った。
「これは、良い酒じゃな。」
「今日のよき日に飲んでいただこうと、丹精し醸した酒でございます。」
オロチは杯を重ね、クシナダは微笑んで酒を注いだ。
束の間の至福。
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BLブログなのに、BLが見当たりません。
すみません。もう少しこの描写が続きます。
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